開業してから10年以上、あるいは20年近く経つのに、税務調査の連絡が一度も来ない。
個人事業主として事業を続けるなかで、税務調査が10年以上来ないという状況に、かえって不安を感じている方もいるでしょう。
売上が伸びてきた今だからこそ、税務署に泳がされているのではないか、いつかまとめて過去数年分を調べられるのではないか、という漠然とした恐怖が頭をよぎるものです。
個人事業主が10年以上税務調査を受けないことはあり得ます。ただし、調査が来ていないことだけで、過去の申告内容が正しいと認められたわけではありません。
この記事では、長年税務調査が来ない背景と実態、過去にさかのぼって課税される期間の仕組み、そして通知に備えて今からできる準備について、わかりやすく解説します。
本記事のポイント
- 個人事業主に税務調査が10年以上来ないことがある理由
- 20年・30年来ないという体験談をどう捉えるべきか
- 税務調査を受けたときに申告内容を説明しやすい帳簿の状態
- 過去にさかのぼって更正や決定が行われる5年・7年のルール
- 税務調査の通知を受ける前に準備しておきたい相談先
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個人事業主に税務調査が10年以上来ないことはあり得る

まず押さえておきたいのは、税務調査はすべての個人事業主に一定の周期で行われるものではないということです。
ここでは、国税庁の公表資料をもとに実地調査の件数と選定方法を確認し、知恵袋やSNSにある長期間調査を受けていないという体験談の捉え方も整理します。
税務調査には全員共通の周期がない
国税庁の令和6事務年度の資料によると、所得税と消費税の実地調査件数は4万6,896件でした。
ただし、この件数には事業所得者だけでなく、譲渡所得などに関する調査も含まれています。そのため、この数字だけから個人事業主の正確な調査確率を計算することはできません。
国税庁は、申告書や収集した資料情報などを分析し、申告漏れなどが見込まれる個人を選定して実地調査を行っています。
すべての申告者へ何年かに一度の順番で調査が回ってくる仕組みではないため、開業してから10年以上、実地調査を受けないケースが生じること自体は不自然ではありません。
一方で、長期間調査が来ていないからといって、今後も調査を受けないとは限りません。
調査を受けていないことは、税務署が過去の申告内容を個別に確認し、正しいと認めたことを意味しない点にも注意が必要です。
参考:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
20年・30年来ないという体験談は調査頻度の根拠にならない
知恵袋やSNSなどを検索すると、開業してから20年、30年にわたり税務調査を受けていないという投稿を見かけることがあります。
ただし、匿名の投稿では、その人の事業内容、売上規模、申告状況などを確認できません。
投稿内容が事実かどうかも外部から検証できないため、個人事業主全体の調査頻度を表す統計として扱うことはできません。
また、国税庁の公表資料からは、個人事業主が開業後何年間税務調査を受けていないかという年数別の統計は確認できません。
こうした体験談は、長期間調査を受けないケースもあり得ると考える参考にはなりますが、自分にも調査が来ないと判断する根拠にはできないのです。
一度も来たことがなくても備えは必要
開業以来、一度も税務調査が来たことがない方は、「このまま来ないのでは」と考えたくなるものです。
しかし、税務署は、申告書や法定調書、取引先などから収集した資料情報を分析し、調査の必要性を判断しています。
事業規模が小さいという理由だけで、調査対象から外れるわけではありません。
申告上の誤りが複数年にわたって続いている場合は、税務調査によって複数年分の処理を確認されることがあります。
同じ記帳方法や経費判断の誤りを毎年繰り返していれば、その影響も複数年に及ぶ可能性があります。
調査を長期間受けていないことは、今後も調査が行われないことや、過去の申告内容に問題がないことを保証するものではありません。
長く調査が来ていない方も、日頃から帳簿や証拠書類を整えておくことが大切です。
税務調査が10年以上来ない個人事業主が確認したいこと

税務調査を受けた場合に重要なのは、売上や経費の根拠を説明できることです。
ここでは、売上1,000万円と税務調査の関係、帳簿や証拠書類を整えるポイント、そして税務署が更正や決定を行える5年・7年の期間について解説します。
売上1,000万円以下でも税務調査の対象になる
国税庁は、売上1,000万円を境に税務調査の優先度が変わるという基準を公表していません。
売上規模が小さくても、資料情報や申告内容の分析から申告漏れなどが見込まれれば、税務調査の対象になり得ます。
一方、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として消費税の納税義務は免除されます。
ただし、特定期間の課税売上高や給与等支払額が1,000万円を超える場合、課税事業者を選択した場合、インボイス発行事業者の登録を受けている場合などは、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者になります。
そのため、売上が1,000万円前後で推移している事業者は、売上の計上漏れがないかに加えて、自分が消費税の課税事業者に当てはまるかを正確に判定しておくことが大切です。
参考:国税庁「納税義務の免除」
取引の流れと申告の根拠を説明できる状態にする
税務調査を受けたときに大切なのは、売上や経費の根拠を帳簿や証拠書類にもとづいて説明できることです。
次のような状態を目指しましょう。
- 現金、銀行振込、カード決済など、売上の記録と入金経路を確認できる
- 経費について、領収書、請求書、振込記録などの証拠が残っている
- 帳簿の内容と通帳、クレジットカード明細、領収書などが整合している
- 事業用と私用の支出が明確に区分されている
- 青色申告特別控除の要件に応じた帳簿を作成している
税理士が申告書を作成する場合には、税理士法にもとづく書面添付制度を利用する方法もあります。
添付書面がある場合は、税務調査の事前通知を行う前に、税務署が税理士から意見を聴取します。
その意見聴取によって疑問点が解消されれば、調査に移行しないこともあります。
ただし、書面添付制度を利用すれば必ず税務調査を回避できるわけではありません。
その後に新たな疑問が生じれば、税務調査が行われることもあります。
日々の取引をため込まず、継続して帳簿へ反映すれば、申告内容の根拠を確認しやすくなります。
取引が多い場合、手作業や表計算ソフトだけで管理すると、入力漏れや転記ミスが生じることもあります。
銀行口座やクレジットカードとの連携、証拠書類のデータ保存に対応した会計ソフトを使えば、取引の取り込みや資料の整理を効率化できます。
更正や決定ができる期間は原則5年、不正は7年
税務調査が10年以上来ていなくても、最近の申告まで一律に不問になるわけではありません。
税務署が申告の誤りを正して更正や決定を行える期間は、国税通則法で定められています。
| 申告の状況 | 更正・決定ができる期間 |
|---|---|
| 通常の申告漏れ・計算誤り | 法定申告期限から原則5年 |
| 通常の無申告 | 法定申告期限から原則5年 |
| 偽りその他不正の行為により税額を免れた場合 | 法定申告期限から7年 |
10年前の年分まで必ずさかのぼって課税されるという意味ではありません。
通常の申告漏れや無申告であれば、法定申告期限から原則5年以内の年分が、更正や決定の対象になり得ます。
偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合は、最大7年までさかのぼることがあります。
また、税務調査が入れば必ず直近5年分すべてを詳しく調べられるという意味でもありません。
実際に確認される年分や範囲は、申告内容や調査で判明した事実によって異なります。
申告漏れが見つかった場合は、本来の税金に加えて過少申告加算税が課されることがあります。
仮装・隠蔽がある場合は、過少申告加算税などに代えて重加算税が課され、さらに納付の日までの延滞税もかかります。
あわせて確認しておきたいのが、帳簿書類の保存義務です。
青色申告の場合、仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿、貸借対照表や損益計算書などの決算関係書類は7年間保存します。
領収証や預金通帳などの現金預金取引等関係書類も原則7年間です。
ただし、前々年分の事業所得と不動産所得の合計額が300万円以下の場合、現金預金取引等関係書類の保存期間は5年間です。
請求書、見積書、契約書などのその他の書類は原則5年間ですが、消費税法上保存が必要な適格請求書等は7年間保存します。
突然の税務調査に個人事業主が備える方法

実地の税務調査では、原則として調査の開始日時、場所、対象税目、対象期間などが事前に通知されます。
ただし、事前通知をすると正確な事実の把握が困難になるおそれがある場合など、一定の場合には事前通知なしで調査が行われることもあります。
長年税務調査を受けていない方にとっては、事前通知がある場合でも、税務署からの連絡自体が突然のことに感じられるでしょう。
ここでは、日頃から準備しておきたい資料と、顧問税理士がいない個人事業主が専門家へ対応を依頼する方法を紹介します。
税務署は申告書や各種の資料情報を分析している
税務署は、申告書、法定調書、取引先などから収集した資料情報を分析し、申告漏れなどが見込まれる対象を選定します。
必要がある場合には、取引先や雇用主などに対する反面調査が行われることもあります。
国税庁が一律の調査選定基準として公表しているものではありませんが、次のような状況では、申告額の根拠を説明できる資料を残しておくことが大切です。
- 売上や利益が前年から大きく変動した
- 大口の取引や新しい取引形態が始まった
- 取引先が発行した支払調書と申告内容に違いがある
- 事業用と私用の支出を同じ口座やカードで支払っている
- 高額な設備投資や消費税の還付申告を行った
国税庁の令和6事務年度の資料では、特別調査・一般調査を受けた事業所得者について、1件当たりの申告漏れ所得金額が高額だった業種の4位に経営コンサルタント、10位にシステムエンジニアが入っています。
ただし、これは実際に特別調査・一般調査を受けた人の結果を業種別に集計したものであり、その業種全体の調査確率を示すものではありません。
IT関連職種であっても、事業用と私用の支出を明確に区分し、経費に計上した根拠を残すことが重要です。
参考:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
日頃から押さえておきたいのは、次の3点です。
- 継続的な記帳:取引をため込まず、定期的に帳簿へ反映する
- 証拠書類との整合:請求書、領収書、入出金明細などを帳簿と結び付けて保存する
- 説明できる状態:売上や経費が変動した理由を資料にもとづいて説明できるようにする
これらを整えても、税務調査の対象にならない保証はありません。
ただし、照会や調査を受けたときに、取引内容や申告額の根拠を落ち着いて説明しやすくなります。
国税出身の提携税理士へ対応を任せる方法
いくら帳簿を整えていても、税務調査の連絡は精神的な負担になります。
特に、顧問税理士がいない個人事業主は、調査の連絡を受けてから、限られた時間で対応可能な税理士を探し、過去の申告書や帳簿を確認してもらわなければなりません。
加えて、スポット依頼も高額になるケースがあります。
例えば、顧問税理士がいない個人事業主が、税務調査の連絡後に税理士へスポット依頼する場合、総額20万~70万円程度が一つの目安です。
こうした点を考えると、まだ税務調査の通知を受けていない段階で、相談先を確保しておくことを選択肢の1つとして検討できます。
その点でお勧めのサービスが、「シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップ」です。
個人プランは、年払いの場合、税抜年額11,760円を一括で支払うことで、1か月当たり980円相当となります。
月払いは税抜月額1,280円です。
会員が対象となる税務調査の連絡を受けた場合、国税出身の提携税理士が税務代理権限証書を提出し、税務署との日程調整、事前準備、調査当日の立会い、調査後の交渉、資料対応などを行います。
対象となる税務調査に伴う修正申告書の作成・提出もサービスに含まれます。
シロクマくんを運営する会社が直接税務代理を行うのではなく、会員と提携税理士が別途締結する税務代理委任契約にもとづいて、提携税理士が自らの責任で税務調査対応を行う仕組みです。
freee、マネーフォワード、弥生、手書き帳簿など、利用している会計ソフトや記帳方法を問わず加入できます。
加入前には、次の主な注意点を確認してください。
- 会員登録後は1か月の待機期間があり、加入前または待機期間中に税務署から最初の連絡を受けた調査は対象外です
- 対象となるのは、主に所得税や消費税に関する実地調査です。電話・文書による照会などの簡易な接触、無申告や不正行為に起因する調査などは対象外となります
- 税務調査への対応は1件につき25時間が上限です。上限を超える場合は、追加費用が発生することがあります
加入したからといって税務調査が来にくくなるわけではなく、追徴税額の減額や調査結果が保証されるサービスでもありません。
加入条件、対象となる調査の範囲、地域ごとの対応方法など、詳しい利用条件は申込み前に公式サイトと利用規約をご確認ください。
公式サイト:シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップ
税務調査でよくある質問

最後に、税務調査を不安に感じている個人事業主から多い疑問を整理します。
調査で避けたい受け答え、金額に関する明確な選定基準の有無、10年間無申告だった場合の扱いを確認しましょう。
税務調査で避けたい受け答え
税務調査で避けたいのは、曖昧な記憶のまま事実を断定することです。
「たぶんこうだったはずです」と推測で答えたり、その場しのぎで説明を合わせたりすると、後から帳簿や証拠書類と食い違う可能性があります。
質問の内容を確認したうえで、帳簿や証拠書類にもとづいて、正確に回答することが基本です。
記憶が曖昧な場合は推測で答えず、「資料を確認して後日回答します」と伝えましょう。
事実と異なる回答をしたり、正当な理由なく帳簿書類の提示を拒んだり、偽りの記載をした帳簿書類を提示したりすると、法律上の問題につながることがあります。
感情的に対立するのではなく、確認された内容へ冷静に対応することが大切です。
税務調査の対象になる明確な金額基準は公表されていない
「売上や所得がいくら以上なら税務調査が来る」という明確な金額基準は公表されていません。
特定の売上高、所得額、経費率だけで、税務調査の対象になるかどうかが決まるわけではありません。
ただし、次のような金額の動きについては、自分で計算や処理を確認し、その根拠となる資料を保存しておくことが大切です。
| 確認しておきたい金額の動き | 確認しておきたい理由 |
|---|---|
| 売上が1,000万円前後で推移している | 消費税の課税事業者に該当するかを正確に判定する必要がある |
| 売上や利益が前年から大きく増減している | 変動の理由を帳簿や資料にもとづいて説明できるようにする |
| 高額な設備投資や消費税の還付申告を行った | 仕入れや還付の根拠となる取引・請求書等を確認する必要がある |
金額そのものより、申告した数字の根拠を帳簿や資料で説明できるかどうかが重要です。
10年間無申告だとどうなるのか
申告義務があるにもかかわらず10年間無申告だった場合でも、10年前の年分まですべて一律に課税されるわけではありません。
通常の無申告について更正や決定ができる期間は、法定申告期限から原則5年です。
偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合は、最大7年となります。
ただし、無申告を長期間続けていれば、対象となる複数年分の本税をまとめて納めることになり、無申告加算税と延滞税も加わる可能性があります。
無申告加算税の割合は、いつ期限後申告を行ったかによって変わります。令和5年分以後については、次のとおりです。
| 期限後申告の時期 | 無申告加算税の原則的な割合 |
|---|---|
| 税務調査の事前通知前に自主的に申告 | 5% |
| 事前通知後、調査による決定を予知する前に申告 | 50万円まで10%、50万円超300万円まで15%、300万円超25% |
| 調査後に申告した場合や税額の決定を受けた場合 | 50万円まで15%、50万円超300万円まで20%、300万円超30% |
事前通知前に自主的に期限後申告をした場合の無申告加算税は、原則5%です。
ただし、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し、期限内申告をする意思があったと認められる一定の条件を満たす場合は、無申告加算税がかからないこともあります。
仮装や隠蔽がある場合は、無申告加算税に代えて、より割合の高い重加算税が課されることがあります。
また、令和5年分以後は、過去5年以内に一定の無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合や、前年・前々年にも無申告加算税等が課される一定の場合には、無申告加算税へ納付すべき税額の10%相当が加重されることがあります。
税務署からの連絡を待つのではなく、無申告に気づいた段階で早めに期限後申告を行うことが大切です。
金額が大きい場合や複数年にわたる場合は、税理士へ相談したうえで進めましょう。
まとめ
個人事業主が10年以上税務調査を受けないことはあり得ます。
しかし、税務調査が来ていないことは、税務署が申告内容を個別に確認し、正しいと認めたことを意味しません。
税務署は、申告情報や各種の資料情報を分析し、AIなども活用しながら、調査の必要性を判断しています。
長期間調査を受けていなくても、通常は法定申告期限から原則5年以内、偽りその他不正の行為があれば最大7年以内の年分が、更正や決定の対象になり得ます。
日頃から継続して記帳を行い、領収書、請求書、入出金明細などを整え、数字の根拠を説明できる状態を保つことが大切です。
顧問税理士がいない方は、税務調査の通知を受ける前に、対応を相談できる相手を確認しておく方法もあります。
過去の申告に誤りや無申告の心当たりがある場合は、税務署から指摘される前に、自主的に是正することが重要です。
税務調査が来ていない今のうちに、帳簿、証拠書類、申告内容、相談先を一度確認しておきましょう。