取引先との会食や贈答品にかかった費用を経費にしたいけれど、どの勘定科目を使えばよいか迷うことはありませんか。
この記事では、接待交際費とは何かという基本的な定義から、間違いやすい科目との区別、具体的な仕訳まで、経理作業の疑問を解消するために分かりやすく解説していきます。
- 接待交際費と会議費・福利厚生費などとの具体的な違い
- 個人事業主と法人における経費計上の上限の違い
- 1人あたり1万円以下の飲食費に関する新しいルール(2024年度改正)
- 税務調査で否認されないための領収書や摘要欄の書き方
- よくある疑問(Q&A)で具体的なケースを解消
接待交際費の勘定科目の基礎知識と仕訳
このセクションでは、経理処理の基本となる「接待交際費」の定義や、他の紛らわしい勘定科目との具体的な使い分けについて解説します。
特に個人事業主の方が知っておくべき経費の考え方や、仕訳の際に記録すべき項目などを整理します。
交際費とは何か
交際費とは、仕入先、その他事業に関係のある者などに対して、接待、供応、慰安、贈答などのために支出する費用のことを指します。
これは税法上の用語で、正式には「交際費等」と呼ばれます。
平易な言葉で言えば、「事業をスムーズに進めるため、あるいは将来の売上につなげるために、取引先などをもてなす費用」となります。
例えば、取引先との関係を良好に保つための飲食代や、お中元・お歳暮といった贈答品の購入費などが該当します。
これらの支出は、事業に直接必要な費用とは言い切れない側面もあるため、税務上の取り扱いが他の経費と異なる場合があります。
交際費と接待交際費の違い
経理の実務において、「交際費」と「接待交際費」という二つの言葉を聞くことがあります。
結論から言うと、これらは制度上の正式な区分ではありません。
「接待交際費」は、税法上の「交際費等」に該当する費用を指す、実務上の一般的な呼称(俗称)です。
会計ソフトによっては、最初から「接待交際費」という勘定科目が設定されていることもありますが、決算書などでは「交際費」として表示されることもあります。
大切なのは、使用した勘定科目の名称そのものよりも、「その支出が実態として交際費等の性質を持っているかどうか」です。
名称の違いに過度に悩む必要はなく、どちらも「事業関係者への接待や贈答のための費用」と理解しておけば問題ありません。
間違いやすい勘定科目
経費処理で最も判断に迷うのが、接待交際費と他の類似した勘定科目との区別です。
以下に、「会議費」「福利厚生費」「広告宣伝費」の3つの勘定科目の主な特徴や注意点をまとめています。
おおよその判断基準は、支出の「対象者」にあります。
| 勘定科目 | 主な対象 | 接待交際費との違い(判断ポイント) |
|---|---|---|
| 会議費 | 取引先や社内での会議、打ち合わせ |
|
| 福利厚生費 | 自社の全従業員 |
|
| 広告宣伝費 | 不特定多数の一般消費者 |
|
個人事業主と法人の違い
個人事業主(フリーランス)の方にとって、交際費の扱いは法人と大きく異なります。
最大のポイントは、個人事業主の場合、交際費を経費として計上する際の上限額が法律で定められていないことです。
法人の場合は、資本金に応じて年間の損金算入(経費計上)に上限が設けられていますが、個人事業主にはその制限がありません。
したがって、事業の運営に必要であったと合理的に説明できる支出であれば、全額を経費として計上可能です。
ただし、「事業関連性」があることが条件です。
家族や友人とのプライベートな飲食代は経費にはなりません。
税務調査で問われた際に、「いつ・誰と・どんな目的で」支出したのかを説明できるよう、領収書やメモを残しておくことが不可欠です。
個人事業主の場合は税額に影響しない
個人事業主の場合、「会議費」でも「接待交際費」でも、最終的な税額に差はありません。
どちらも「必要経費」として全額計上できるため、法人のように勘定科目の使い分けが節税に直結するわけではないからです。
そのため、どちらの科目で処理するかよりも、支出内容を明確に記録しておくことの方が重要です。
実務上は次のように区別しておくと、帳簿が整理しやすく、後からの説明もスムーズです。
| 支出内容 | 勘定科目 | 補足 |
|---|---|---|
| 商談や打ち合わせに伴う飲食 | 会議費 | 1人あたり1万円以下で保存要件を満たす場合は、交際費等から除外可(会議費処理) |
| 取引先への贈答・接待・慶弔関係 | 接待交際費 | 「もてなし」や「関係維持」を目的とした支出 |
1人あたり1万円以下の飲食費は会議費として処理できる場合も
2024年4月1日以降、1人あたり1万円以下の飲食費については、一定の要件を満たせば「交際費等」から除外し、会議費などで処理できるようになりました。
出典:国税庁タックスアンサー No.5265「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」
保存要件として、以下の事項を帳簿または領収書に明記しておく必要があります。
- 飲食に参加した人数(自社・相手先の合計)
- 支出の目的(打ち合わせ・商談など)
- 相手先の会社名・氏名
- 支払日および飲食店の名称
たとえば、取引先3名と打ち合わせを兼ねて合計15,000円(1人あたり5,000円)を支払った場合、上記の要件を満たしていれば「会議費」で処理できます。
ただし、記録が不十分な場合や実質的に接待を目的とする支出であれば、「接待交際費」として扱うのが適切です。
青色申告と白色申告の仕訳例
個人事業主の方が確定申告を行う際、青色申告でも白色申告でも、発生した交際費は経費として記帳する必要があります。
ここでは、それぞれの記帳方法の違いを具体例で解説します。
青色申告(複式簿記)
(例)取引先の担当者2名と打ち合わせを兼ねて接待を行い、飲食代として合計30,000円を現金で支払った。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 接待交際費 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
もし、この支払いを事業用のクレジットカードで行った場合は、貸方科目が「現金」ではなく「未払金」となります。
後日カード利用額が銀行口座から引き落とされた際に、「未払金」を「普通預金」で支払った仕訳を行います。
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白色申告(簡易簿記)
白色申告の方は、青色申告のように複式簿記で仕訳を行う必要はありません。
ただし、取引内容の記録(帳簿づけ)は義務とされています。
そのため、日々の支出については、次のように日付・内容・金額・勘定科目を簡単にメモしておき、確定申告時に提出する「収支内訳書」の経費欄に「接待交際費」として1年間の合計金額を記載します。
たとえば、次のような簡易帳簿の記録で十分です。
| 日付 | 内容 | 金額 | 科目 |
|---|---|---|---|
| 5/10 | 取引先A社との会食(3名) | 15,000 | 会議費 |
| 6/20 | 仕入先B社へのお中元 | 5,000 | 接待交際費 |
※上記のように、取引先3名との飲食が1人あたり1万円以下(例:15,000円÷3名=5,000円)であり、保存要件を満たしている場合は、会議費として処理可能です。
このように、白色申告では仕訳帳を作成する必要はありませんが、支出の記録自体は必要です。
帳簿や領収書を整理しておくことで、確定申告書の作成もスムーズに進み、税務調査にも対応しやすくなります。
摘要(てきよう)の書き方のポイント
接待交際費を仕訳する際、または領収書を保存する際に非常に大切なのが「摘要欄」の記載、あるいは領収書の裏などへのメモ書きです。
これは、税務調査が入った場合に、その支出が本当に事業に必要なものであったかを証明するための重要な証拠となります。
特に交際費は、私的な支出との境界が曖昧になりがちなため、他の勘定科目よりも厳しくチェックされる傾向にあります。
最低限、以下の情報を記録しておくことが望ましいです。
- 支出した年月日
- 支出の相手先(会社名、氏名)
- 参加した人数(相手先と自社の合計)
- 飲食店の名称と所在地
- 支出の目的(例:新商品に関する打ち合わせ、忘年会、お歳暮として、など)
特に後述する「1人あたり1万円以下の飲食費」の特例を適用する場合には、これらの情報の保存が要件となっています。
接待交際費の勘定科目に関するQ&A
ここからは、『接待交際費 勘定科目』に関して検索する方が特に疑問に思いやすい点や、最近の税制改正のポイントについて、Q&A形式で解説します。
飲食費の1万円基準(旧5000円)と会議費の境界線
「5,000円基準」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、この基準は令和6年度(2024年度)の税制改正で変更されました。
先ほども取り上げましたが、2024年4月1日以降に支出する飲食費については、基準額が5,000円以下から「10,000円以下」へと引き上げられています。
1人あたり10,000円「以下」の場合
取引先などとの飲食費であっても、1人あたりの金額が10,000円以下であれば、税法上の「交際費等」から除外することが認められています。
制度上は「交際費等から除外する」という規定で、特定の勘定科目が指定されているわけではありませんが、実務上は「会議費」として処理するのが最も一般的です。
この処理は、特に法人にとって大きなメリットがあります。
なぜなら、法人が経費として計上できる交際費には上限枠(原則年間800万円など)がありますが、「会議費」として処理できれば、その上限枠を消費せずに済むからです。
1人あたり10,000円を「超えた」場合
逆に、取引先との飲食費が1人あたり10,000円を「超えた」場合は、たとえ「会議」や「打ち合わせ」の名目であったとしても、税務上は「接待交際費」として扱われます。
ここで最も注意すべき点は、1万円を超えた部分だけが交際費になるのではなく、支出した「全額」が接待交際費に該当するということです。
判定方法と具体例
この1万円基準の判定は、お店に支払った総額を参加人数で割って計算します。
- (支払った総額)÷(参加人数)
例えば、総額36,000円を3人(1人あたり12,000円)で飲食した場合、1人あたり10,000円を超えているため、36,000円の全額が「接待交際費」となります。
なお、この「1万円」を税抜きの金額で判定するか、税込みの金額で判定するかは、自社が採用している消費税の経理方式(税抜経理か税込経理か)によって異なりますので注意が必要です。
例外(社内会議)
ただし、上記とは別に例外もあります。
例えば、社外者を含まない純粋な「社内会議」のために支出したお茶代や弁当代などは、会議に通常要する費用の範囲であれば、金額にかかわらず交際費等から除外(=会議費等で処理)できます。
会社の経費で交際費は認められますか?
法人の場合、交際費は経費として認められますが、無制限ではありません。
税金の計算上、経費(損金)として算入できる金額に上限が設けられています。
この上限額は、会社の資本金の額によって異なります。
資本金1億円以下の法人(中小企業など)
以下のうち、どちらか有利な方を選択できます。
- 年間の交際費のうち、800万円までの金額
- 年間の交際費のうち、接待飲食費(飲食代)の50%の金額
ほとんどの中小企業は、年間の交際費が1,600万円を超えることが稀であるため、実質的に「年間800万円まで」が上限となると考えてよいでしょう。
出典:中小企業庁「交際費課税の特例」
資本金1億円超 100億円以下の法人
年間の交際費のうち、接待飲食費(飲食代)の50%の金額のみが上限となります。
資本金100億円超の法人
原則として、支出した交際費等の全額が損金不算入(経費として認められない)となります。
ただし、資本金100億円超の法人であっても、先ほど解説した「1人あたり1万円以下の飲食費」は、そもそも「交際費等」から除外されます。
そのため、保存要件をきちんと満たしていれば、資本金の額に関わらず経費(会議費など)として損金算入することが可能です。
接待交際費はいくらまで経費になるのか
前述の通り、この質問への答えは「個人事業主か、法人か」によって根本的に異なります。
個人事業主(フリーランス)の場合は、法律上の上限額はありません。
事業に関連する支出であり、その事実を証明できる限り、いくらでも経費として計上することが可能です。
法人の場合は、資本金によって異なります。
特に中小企業(資本金1億円以下)であれば、原則として「年間800万円まで」が経費として認められる上限(損金算入限度額)であると覚えておくとよいでしょう。
まとめ
この記事では、接待交際費の勘定科目の選び方や、間違いやすい科目との違い、個人事業主と法人の扱いの差について解説してきました。
接待交際費の勘定科目を正しく判断することは、単なる記帳作業にとどまらず、最終的な納税額にも影響を与える重要なプロセスです。
特に、2024年4月からは飲食費の基準額が5,000円から10,000円に引き上げられ、この新しいルールを理解しておくことが、法人の節税対策としても鍵となります。
個人事業主やフリーランスの方は「事業関連性」を明確にすること、法人の経理担当者の方は「1万円基準」と「損金算入枠(800万円など)」を意識することが大切です。
日々の会計ソフトへの入力時に、領収書に参加者や目的をメモする習慣をつけるだけでも、税務調査のリスクは大きく下がります。
