宿泊費・ホテル代の勘定科目と仕訳例|経費計上の注意点についても解説

出張で利用した宿泊費や取引先をもてなした際のホテル代など、事業活動において宿泊費用が発生する場面は少なくありません。

経理処理を進める上で、この費用をどの勘定科目で仕訳すればよいか、迷われた経験はないでしょうか。

特に個人事業主の方にとっては、消費税の扱いも含めて、経費の判断は悩ましい問題かもしれません。

宿泊費の仕訳は、その目的によって使用する勘定科目が変わるため、いくつかのルールを理解しておく必要があります。

この記事では、そうした疑問や不安を解消するために、宿泊費に関する勘定科目の使い分けから具体的な仕訳方法まで、分かりやすく解説していきます。

 

本記事のポイント

  • 宿泊費の目的別の勘定科目がわかる
  • 出張や接待など具体的な仕訳例を学べる
  • 法人と個人事業主がそれぞれ注意すべき点が明確になる
  • 経費の上限や宿泊税の扱いを理解できる

 

宿泊費の勘定科目の基本と目的別の使い分け

 

このセクションでは、まず「宿泊費は経費にできるのか?」という基本的な問いにお答えします。

その上で、宿泊費の仕訳で使われる主要な勘定科目を目的別に分類し、それぞれの役割と違いを明確に解説していきます。

出張で発生する旅費交通費から、会議や忘年会といった特定のシチュエーションまで、基本的な考え方を整理するのに役立ちます。

ホテル代は経費で落とせますか?

 

事業に関連するホテル代であれば、経費として計上することが可能です。

なぜなら、事業を運営し、収益を上げるために必要な活動に伴う支出は、原則として経費と認められるからです。

例えば、以下のようなケースで発生したホテル代は、経費として扱うことができます。

  • 遠方の取引先へ訪問するための出張
  • 業務に必要な知識を得るための研修やセミナーへの参加
  • 従業員の慰安を目的とした社員旅行
  • 取引先との関係を円滑にするための接待

一方で、注意すべき点もあります。

それは、事業との関連性が全くないプライベートな家族旅行や友人との旅行にかかった費用は、当然ながら経費にはなりません。

個人事業主の方で、一つの旅行に事業目的とプライベートな目的が混在している場合は、事業に使った分だけを合理的な基準で按分して計上する必要があります。

要するに、その宿泊が「事業の遂行上、必要であったか」を客観的に説明できるかどうかが、経費として認められるための鍵となります。

 

宿泊費の勘定科目

 

宿泊費を仕訳する際に使用する勘定科目は、一つだけではありません。

その宿泊が「どのような目的で行われたのか」によって、使い分ける必要があります。

税法上、それぞれの支出の性質が異なるため、目的ごとに正しく分類することが求められます。

主に使われる勘定科目は、以下の4つです。まずはこの基本パターンを把握しておきましょう。

 

勘定科目 主な目的 具体的なシーン
旅費交通費 通常の業務遂行 遠隔地への出張、支店での会議など
福利厚生費 従業員の慰安・勤労意欲向上 全従業員を対象とした社員旅行、慰安旅行など
交際費 事業関係者との親睦・接待 取引先の接待、贈答を伴う旅行など
研修費 業務に必要な知識・技能の習得 研修、セミナー、講習会への参加など

 

このように、同じホテルに宿泊したとしても、その目的が出張なのか、社員旅行なのか、あるいは接待なのかによって、帳簿に記載する際の「費用の名前」である勘定科目が変わってきます。

 

旅費には宿泊費は含まれますか?

 

一般的に「旅費交通費」という勘定科目の中に宿泊費は含まれます。

むしろ、旅費交通費を構成する主要な要素の一つと言えます。

「旅費」とは、役員や従業員が会社の業務で通常の勤務地を離れて遠隔地へ移動する際に発生する、さまざまな費用を指します。

これには、宿泊費だけでなく、以下のような費用も該当します。

  • 鉄道、航空機、バス、船舶などの交通費
  • 出張中の食事代や雑費を補うための出張手当(日当)
  • 有料道路料金、レンタカー代、駐車場代など

一方で、よく似た勘定科目に「交通費」があります。

これは、主に通常の勤務地から近距離の取引先へ訪問する際の電車代やバス代、あるいは従業員の通勤手当などを処理する際に使われるものです。

宿泊を伴うような長距離の移動費用は「旅費交通費」として、より広い範囲の経費をまとめる勘定科目で処理するのが一般的です。

 

出張での宿泊費

 

業務命令によって通常の勤務地を離れ、遠方の取引先や支社へ赴く「出張」に伴って発生した宿泊費は、「旅費交通費」として処理するのが一般的です。

例えば、東京本社から大阪支社へ2泊3日の出張をした場合のホテル代は、旅費交通費に該当します。

また、業務が長引き終電を逃してしまい、やむを得ず会社の近くのビジネスホテルに宿泊した場合の費用も、業務遂行に直接関連する支出として旅費交通費で処理することが妥当と考えられます。

ただし、どこまでの範囲を旅費交通費として認めるかは、会社ごとに定められた「旅費規程」によって左右されます。

多くの企業では、役職に応じて宿泊費の上限額を設けたり、出張中の食事代などを補う「日当」を支給したりするルールを定めています。

経費を精算する際は、この社内規程を確認することが大切です。

 

会議での宿泊費

 

宿泊施設内の会議室を利用して、取引先との打ち合わせや社内会議を行う場合、それに伴う宿泊費は「会議費」として計上することができます。

支出の主目的が「会議の実施」にあると明確に言える場合がこれにあたります。

会議費として処理する場合、宿泊費だけでなく、会議に関連する以下のような費用もまとめて計上することが可能です。

  • 会議室の使用料
  • プロジェクターなどの機材レンタル料
  • 会議中に提供するお茶やコーヒー、お弁当などの飲食代
  • 配布資料の印刷代

ただし、注意点として、会議としての実態が伴っていることが求められます。

例えば、会議の時間はごくわずかで、ほとんどの時間が観光や懇親会に費やされているような場合、税務調査で「実質的には交際費や給与ではないか」と指摘される可能性があります。

あくまで、会議がメインの目的であることが客観的に分かるような議事録やスケジュールを残しておくことが望ましいです。

 

忘年会での宿泊費

 

従業員の慰安や社内の親睦を深めることを目的に、宿泊を伴う忘年会や社員旅行を実施した場合、その費用は「福利厚生費」として処理します。

これは、従業員の労働環境を整え、勤労意欲を向上させるための支出と見なされるからです。

ただし、この福利厚生費として経費計上するためには、以下の全ての要件を満たす必要があります。

  • 旅行の期間が4泊5日以内であること(海外旅行の場合は、現地での滞在日数が4泊5日以内)。
  • 全従業員の50%以上が旅行に参加していること(工場や支店ごとに行う場合は、その職場ごとの50%以上)。
  • 役員や特定の従業員だけでなく、希望すれば全従業員が参加できるものであること。
  • 自己都合で参加しなかった従業員に対して、旅行代金の代わりに現金を支給しないこと。

もし、これらの要件から外れてしまうと、福利厚生とは認められません。

例えば、役員だけで行う旅行の費用は「役員賞与」、不参加者に現金を支給した場合はその現金を含めて参加者の「給与」として扱われ、所得税の課税対象となるため、計画の際には十分な注意が必要です。

参考:国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行

 

接待目的の宿泊費

 

取引先などの事業関係者を接待する目的で宿泊費を支出した場合、その費用は「交際費」として仕訳します。

事業を円滑に進めるために、取引先との親睦を深めるための支出と位置づけられるためです。

例えば、以下のようなケースが交際費に該当します。

  • 得意先を招待して行うゴルフ旅行の宿泊費やプレー代
  • 遠方から来社した取引先のために手配したホテル代
  • 接待の席で提供した飲食代やお土産代

ここでのポイントは、あくまで「事業に関連する接待であるか」という点です。

社長の個人的な友人を招待した旅行など、事業との関連性が説明できない支出は交際費として認められません。

税務調査でも厳しくチェックされる項目の一つであるため、いつ、誰と、どのような目的で会ったのかを記録として残しておくことが大切です。

 

ケース別で見る宿泊費の勘定科目と注意点

 

ここからは、より具体的なケースに焦点を当てて、宿泊費の会計処理を深掘りします。

取引先が関わる場合の交際費の扱いや、法人と個人事業主とで異なる視点、経費の上限に関する考え方などについて取り上げています。

 

宿泊費負担の注意点

 

取引先との会合などで宿泊が発生した場合、どちらがその費用を負担するかについて、法律上の明確な決まりはありません。

基本的には、両者間の商習慣や、事前の取り決めによって決まります。

自社が接待する側であれば負担することが多いですし、逆に招待される側であれば負担していただくケースもあるでしょう。

自社が負担する場合に注意したいのが、交際費の損金算入限度額です。

法人の場合、資本金の額に応じて、経費として認められる交際費の金額に上限が設けられています。

  • 資本金1億円以下の法人:年間800万円まで、または接待飲食費の50%まで
  • 資本金1億円超の法人:接待飲食費の50%まで

この上限を超えた金額は、税法上の経費(損金)とは認められず、法人税の負担が増えることになります。

また、あまりに社会通念を逸脱した高額な接待は、税務上問題視されるリスクもあるため、常識の範囲内での支出を心がけることが肝心です。

参考:国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算

 

法人の場合の宿泊費

 

法人が宿泊費を処理する場合、これまで解説してきた勘定科目の使い分けを、社内で統一されたルールに基づいて行うことが極めて大切になります。

そのための基盤となるのが、「旅費規程」や「経費精算規程」といった社内規程です。

これらの規程を整備することには、いくつかのメリットがあります。

  • 経費精算の効率化
  • 公平性の担保
  • 税務上のリスク軽減

このように、法人の場合は場当たり的な判断ではなく、規程に則った一貫性のある経理処理が求められます。

 

個人事業主の宿泊費

 

個人事業主の方も、法人と同様に、事業を目的とした宿泊費であれば問題なく経費として計上できます。

使用する勘定科目も、出張であれば「旅費交通費」、接待であれば「交際費」といった基本的な考え方は同じです。

ただし、個人事業主特有の注意点として、「事業利用とプライベート利用の区別」がより厳密に求められる点が挙げられます。

特に、一つの旅行の中に仕事と観光が混在しているような場合は、「家事按分」という考え方が必要です。

例えば、5日間の旅行日程のうち、2日間を取引先との商談に充て、残りの3日間を観光に費やしたとします。

この場合、宿泊費や交通費といった旅費総額のうち、事業に関連する部分、すなわち5分の2の金額だけを旅費交通費として経費計上します。

なぜその割合が妥当なのかを客観的に説明できるよう、旅程表や商談の記録などを領収書と一緒に保管しておくことが、後の税務調査への備えとなります。

 

ホテル代は経費でいくらまで認められる?

 

ホテル代の経費の上限について、法律で「〇〇円まで」といった具体的な金額が定められているわけではありません。

ただし、税法上の原則として「社会通念上、妥当と認められる金額」であることが求められます。

もし、業務の内容に見合わない著しく高額なホテル(例えば、一泊数十万円のスイートルームなど)に宿泊した場合、税務調査で「事業に不必要な贅沢である」と判断され、経費として認められない可能性があります。

では、妥当な金額の目安はどのくらいなのでしょうか。

一つの参考として、民間の調査機関である産労総合研究所の調査によると、国内出張における宿泊費の平均的な支給額は9,000円台となっています。

多くの法人は、この種のデータを参考にしつつ、自社の「旅費規程」で役職ごとに宿泊費の上限額(例:一般社員は10,000円、部長職は15,000円など)を定めています。

この規程が社会通念上、妥当な範囲内であれば、その金額内での支出は経費として認められやすいと言えます。

参考:産労総合研究所「2021年度 国内・海外出張旅費に関する調査

個人事業主のホテル代経費の上限は?

 

先ほども取り上げたように、個人事業主の場合も、ホテル代の経費上限に関する基本的な考え方は法人と同じで、「社会通念上、妥当な金額」であることが原則です。

しかし、法人のように客観的な「旅費規程」が存在しないため、なぜその宿泊先を選び、その金額が必要だったのかを、より具体的に説明できる合理的な理由を準備しておくことが大切です。

例えば、以下のような理由が考えられます。

  • 翌日の早朝から始まるセミナー会場に直結したホテルだった
  • 交通の便が悪く、他に選択肢がなかった
  • 重要な取引先との会食場所と同じホテルだった

単に「有名だから」「快適だから」という理由だけでは、事業上の必要性を説明するのは難しいかもしれません。

宿泊費が高額になる場合は特に、その必要性を裏付ける資料やメモを残しておくことで、税務上のリスクを低減させることができます。

 

まとめ

 

この記事では、宿泊費に関する勘定科目の使い分けと、それに伴う注意点について解説してきました。

宿泊費の仕訳における最も重要なポイントは、その支出が「どのような目的で行われたか」を正確に把握することにあります。

同じホテル代であっても、目的が出張であれば「旅費交通費」、社員旅行であれば「福利厚生費」、取引先のもてなしであれば「交際費」と、用いるべき勘定科目は変わります。

法人であれば、公平性と税務リスクの観点から、根拠となる「旅費規程」を整備し、それに基づいた一貫性のある運用が求められます。

一方で個人事業主は、規程がない分、一つひとつの支出が事業にどう関連しているのかを客観的に証明できる記録を残すことがより一層大切になると言えるでしょう。

この記事が、あなたの経理業務における迷いを解消する一助となれば幸いです。

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