会社の経費で薬を購入したものの、どの勘定科目を使えば良いか分からず、会計ソフトの前で手が止まってしまった経験はありませんか。
従業員のための常備薬や、急な体調不良に備えた薬など、事業に関連する支出であることは確かでも、その仕訳には迷いがちなものです。
この記事では、薬の購入費用をどの勘定科目で処理すべきか、具体的なケースを交えながら分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、以下の点について理解を深めることができます。
本記事のポイント
- 会社で購入した薬の基本的な勘定科目がわかる
- 「福利厚生費」と「消耗品費」の使い分け方がわかる
- 個人事業主の場合の経費処理の違いを理解できる
- 経費として認められる薬と認められない薬の境界線がわかる
- 仕訳で迷ったときの具体的な考え方が身につく
法人が薬代を経費として処理する場合、その目的や対象者によって使用する勘定科目が異なります。
ここでは、会社の経理担当者がまず押さえておきたい、薬に関する勘定科目の基本的な考え方やルールについて解説します。
どのケースでどの勘定科目を選ぶべきか、その判断基準を学びましょう。
会社で買う薬は何費ですか?
会社で購入した薬を経費として計上する場合、一般的に「福利厚生費」または「消耗品費」という勘定科目を使用します。
事業を運営する上で発生した費用は経費として認められますが、薬代についてはその目的が重要視されます。
例えば、従業員が誰でも利用できる救急箱の中の常備薬や、作業中の怪我に備えるための医薬品は、事業に関連する支出と考えられるでしょう。
一方で、社長や特定の従業員が個人的に服用するための薬代は、事業とは直接関係のない私的な支出と見なされるため、原則として会社の経費にはできません。
したがって、薬代を経費にする際は、「誰が」「何のために」使う薬なのかを明確にし、事業との関連性を説明できることが前提となります。
市販薬の勘定科目は福利厚生費が一般的
従業員のために購入した市販薬は、「福利厚生費」として仕訳をするのが一般的です。
福利厚生費とは、給与以外で、全従業員の労働意欲の向上や健康維持などを目的として公平に支出される費用のことを指します。
社内に設置する救急箱の風邪薬や鎮痛剤、消毒液などは、まさにこの福利厚生費の典型例です。
ただし、福利厚生費として認められるためには「全従業員を対象としている」という公平性の要件を満たす必要があります。
特定の役員や一部の従業員だけを対象に薬を支給した場合は、福利厚生費とは見なされず、その人への給与(現物支給)として扱われる可能性があるため注意が必要です。
この考え方は、インフルエンザの予防接種費用を会社が負担する場合などと同じで、公平性が一つの鍵となります。
(参考: 国税庁「No.5261 交際費等と福利厚生費との区分」)
薬局で買ったものはすべて経費になる?
薬局やドラッグストアで購入したからといって、その費用がすべて経費として認められるわけではありません。
経費計上の可否を判断する上で最も大切なのは、その支出が「事業に関連しているかどうか」という点です。
例えば、会社の救急箱を補充するために購入した絆創膏や風邪薬は、従業員の労働環境を維持するための費用として経費計上が可能です。
しかし、同じ薬局で購入したものでも、社長が自宅で使うための胃腸薬や、経理担当者が個人的に使う目薬などは、事業とは関係のない私的な支出であり、経費にはなりません。
もし、事業用の薬と個人用の商品を一枚のレシートでまとめて購入した場合は、事業用の分だけを抜き出して経費計上する必要があります。
経費にできるものとできないものを明確に区別し、後から証明できるよう、レシートや領収書には但し書きを記載しておくことが望ましいです。
ドラッグストアで買った薬の勘定科目の例
実際にドラッグストアで薬を購入した場合の仕訳例を見てみましょう。
ここでは、従業員全員が使えるように、救急箱に入れる常備薬セットを3,000円分、会社の現金で購入したケースを想定します。
この場合、勘定科目は「福利厚生費」または「消耗品費」を使用できます。今回は福利厚生費で仕訳を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
福利厚生費 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 |
このように、費用の目的(従業員のため)を借方に、支払い手段(現金)を貸方に記載します。
もし、クレジットカードで支払った場合は、貸方の勘定科目が「未払金」となり、後日、口座から引き落とされた際に「未払金」を「普通預金」で消し込む処理を行います。
会計ソフトを利用している場合は、取引内容を入力すると自動で仕訳を提案してくれる機能もあり、経理作業の負担を軽減できます。
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全員が使う常備薬の勘定科目は消耗品費
従業員全員が利用できる常備薬の購入費用は、「消耗品費」として処理することも可能です。
消耗品費は、文房具やコピー用紙のように、使用することで消耗・減少する物品や、取得価額が10万円未満の備品などを計上するための勘定科目です。
救急箱に常備しておく薬も、この条件に当てはまるため、消耗品費として仕訳をしても会計上は問題ありません。
福利厚生費ではなく消耗品費として処理する考え方の背景には、薬を「従業員の健康を守るための特別な支出」と捉えるか、「オフィスに必要な備品の一つ」と捉えるかの違いがあります。
どちらの勘定科目を選ぶかは、最終的に会社の経理方針によります。
大切なのは、一度「常備薬は消耗品費で処理する」と決めたら、特別な理由がない限りは継続して同じ勘定科目を使用し、会計処理に一貫性を持たせることです。
薬代は消耗品費と福利厚生費のどちら?
薬代の処理において、「消耗品費」と「福利厚生費」のどちらを使うべきか迷う方は少なくありません。
結論から言うと、従業員全員が対象となる常備薬であれば、どちらの勘定科目を使用しても間違いではありません。
両者の選択は、その支出を会社がどう位置づけるかという解釈の違いによります。
勘定科目 | 特徴・ニュアンス | 具体例 |
---|---|---|
福利厚生費 | 従業員の労働環境改善や健康維持を目的とした費用。従業員への投資という側面が強い。 | ・救急箱の常備薬 ・健康診断の費用 ・インフルエンザ予防接種 |
消耗品費 | 業務を遂行するために必要な備品・消耗品の購入費用。事務用品などと同列の扱い。 | ・救急箱の常備薬 ・マスク、消毒液 ・文房具、コピー用紙 |
このように、どちらの科目にも合理的な理由が存在します。
例えば、従業員の健康管理を経営上の重要課題と位置づけている企業であれば「福利厚生費」が馴染むかもしれません。
一方で、あくまでオフィス備品の一つとして管理したい場合は「消耗品費」が適していると考えられます。
どちらを選んだとしても、税務上の有利・不利が大きく変わることはありません。
自社の経理ルールとしてどちらかに統一し、継続的に運用することが最も大切です。
個人事業主向け薬の勘定科目と注意点
個人事業主の場合、薬代の経費計上には法人とは異なる注意点が存在します。
事業主自身の医療費の扱いや、従業員がいない場合の勘定科目の選び方など、特有のルールを理解しておく必要があります。
ここでは、個人事業主が薬代や関連費用を処理する際の具体的な方法と注意点を解説します。
薬の勘定科目は個人事業主だと違う?
個人事業主の場合、薬の勘定科目の考え方は法人と少し異なります。
特に大きな違いは、事業主自身の個人的な支出と事業の経費を明確に分ける必要がある点です。
事業主本人が使うための薬代は、たとえ事業用の資金から支払ったとしても経費にはなりません。
このような私的な支出は「事業主貸」という勘定科目を使って処理します。
これは、事業のお金を事業主個人に一時的に貸し付けた、という扱いになります。
もし個人事業主が従業員を雇っている場合、その従業員たちのために購入した常備薬は、法人と同じように「福利厚生費」として経費計上が可能です。
しかし、従業員がおらず事業主一人の場合は、福利厚生の対象となる相手がいないため、「福利厚生費」の勘定科目は使用できません。
来客や取引先が急に体調を崩した際に備えて薬を常備しておく、という目的であれば「消耗品費」として経費に計上できる可能性があります。
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個人事業主が使う風邪薬は経費になるか
個人事業主が自分自身のために購入した風邪薬の代金は、原則として経費にすることはできません。
事業を継続するために健康を維持することは非常に大切ですが、税法上、個人の健康管理に関する費用は個人的な支出と見なされます。
たとえ「この風邪を治さないと仕事に穴が開く」という状況であっても、その薬代は経費ではなく、個人の医療費となります。
これらの費用は、事業の経費として計上する代わりに、年間の医療費が一定額を超えた場合に個人の確定申告で「医療費控除」の対象とすることができます。
(参考: 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」)
前述の通り、事業所に常備し、従業員や来客が使用するための風邪薬であれば話は別です。
その場合は「福利厚生費」や「消耗品費」として経費計上が可能です。
あくまで「誰のために購入したか」が判断の分かれ目となります。
個人事業主の目薬代の経費と勘定科目
長時間のPC作業が欠かせないIT系の個人事業主などにとって、目薬は必需品かもしれません。
しかし、事業主自身が使用する目薬代も、風邪薬と同様に原則として経費に計上することは困難です。
たとえ業務が原因で目の疲れが生じたとしても、その治療や緩和のための目薬は個人的な医療費と判断されるのが一般的です。
この費用も、事業用の財布から支払った場合は「事業主貸」として処理し、個人の確定申告で医療費控除を検討することになります。
経費として認められる可能性があるとすれば、それは事務所に来客があった際に、希望する方に使ってもらう目的で常備しているようなケースです。
この場合、来客用の備品として「消耗品費」で処理することが考えられますが、その使用目的や事業との関連性を客観的に説明できる準備は必要でしょう。
カイロの勘定科目は何を使えばいい?
冬場の屋外での作業や、暖房が効きにくい場所で仕事をする際に使用するカイロの費用は、経費として認められる可能性があります。
この場合、勘定科目は「消耗品費」が適当でしょう。
ポイントは、カイロが個人的な防寒対策のためではなく、業務を遂行する上で必要不可欠な備品であると説明できるかどうかです。
例えば、建設現場で作業する従業員に配布するためのカイロや、冬場のイベントで来場者に提供するためのカイロであれば、事業関連性が高く経費として認められやすいと考えられます。
一方で、通勤中やオフィス内で個人的に使うためのカイロは、私的な支出と見なされる可能性が高くなります。
薬代と同様に、その支出が事業の収益獲得にどう貢献するのか、という視点で判断することが鍵となります。
サプリメントの経費と勘定科目の注意点
健康維持や栄養補給のために摂取するサプリメントの購入費用は、経費として計上するのが極めて難しい品目の一つです。
サプリメントは、病気の治療を直接の目的とする医薬品とは異なり、健康増進や予防といった個人的な目的で利用されるものと広く認識されています。
そのため、税務上は事業との直接的な関連性を見出すのが困難であり、ほぼすべてのケースで個人的な支出と判断されるでしょう。
どのような勘定科目を使っても、サプリメント代を経費として計上することは原則として認められないと考えておくのが安全です。
これを経費として処理してしまうと、税務調査の際に指摘を受け、修正申告や追徴課税のリスクを負うことになります。
健康管理は事業主にとって重要ですが、そのための費用は経費ではなく、個人の生活費の範疇で管理する必要があります。
まとめ:薬の勘定科目の選び方
ここまで様々なケースを見てきましたが、薬の勘定科目で迷った際の考え方をまとめます。
まず大切なのは、「誰のために」「何のために」購入した費用なのかを明確にすることです。
従業員全員の健康や安全を守るための常備薬であれば、「福利厚生費」または「消耗品費」として経費にできます。
この二つの選択は会社の経理方針によりますが、一度決めたルールを一貫して適用することが肝心です。
一方で、個人事業主や法人の役員が自分自身のために使う薬は、事業とは切り離し、「事業主貸」や「役員貸付金」として個人的な支出として扱う必要があります。
来客用に備えるのであれば「消耗品費」として計上できる可能性がありますが、その目的を明確にしておきましょう。
これらの判断は時に複雑で、グレーゾーンも存在します。
仕訳に迷った際は、安易に自己判断せず、税理士などの専門家に相談することも検討してみて下さい。