事務所用に新しい掃除機を購入したけれど、この勘定科目は何を使えばいいのだろう?と悩んでいませんか。
特に、購入した掃除機の金額によって仕訳の方法が変わると聞いて、不安に感じているかもしれません。
この記事では、掃除機を購入した際の正しい勘定科目の選び方について、金額の違いに注目しながら分かりやすく解説します。
本記事のポイント
- 掃除機購入時の適切な勘定科目が分かる
- 購入金額に応じた会計処理の違いを理解できる
- 減価償却や家事按分といった注意点が明確になる
- ルンバなどのロボット掃除機や業務用掃除機の耐用年数が把握できる
掃除機の勘定科目は金額で変わる
ここでは、掃除機を経費として計上する際の基本的な考え方を解説します。
掃除やクリーナー代としてどの勘定科目を使うべきか、多くの人が迷うのは購入金額によって処理方法が変わるためです。
10万円未満の場合と10万円以上の場合、それぞれのケースでどのように仕訳を行うのか、基本的なルールをまず押さえましょう。
掃除機の勘定科目は?
事務所や店舗の清掃に使う掃除機の購入費用は、経費として計上できます。
事業活動を行う上で、職場環境を清潔に保つための支出は、当然ながら必要な経費と認められるからです。
一般的に、掃除機やクリーナー代の購入で使われる勘定科目は「消耗品費」です。ただし、これはあくまで購入金額が一定額未満の場合に限られます。
もし高額な掃除機を購入した場合は、異なる勘定科目(工具器具備品など)で処理する必要が出てきます。
そのため、まずは購入した掃除機の領収書を確認し、金額を把握することが大切です。
なお、掃除機の紙パックや交換用フィルターなどの関連費用も、基本的には「消耗品費」として処理して問題ありません。
10万円未満と10万円以上での仕訳の違い
会計処理の大きな分岐点は、購入金額が10万円未満か10万円以上かという点です。
なぜなら、税法上、10万円未満の物品は「消耗品費」として購入時に全額を経費計上できますが、10万円以上のものは原則として「資産」として扱われるためです。
10万円未満の場合
勘定科目は「消耗品費」を使い、購入した年の経費として一度に全額を計上します。これが最も簡単な処理方法です。
例えば、5万円の掃除機を現金で購入した場合、仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
消耗品費 50,000円 | 現金 50,000円 |
10万円以上の場合
勘定科目は「工具器具備品」などを使い、資産として計上します。
資産として会計ソフトなどに登録し、後ほど解説する「減価償却」という手続きを通じて、数年間に分けて経費化していく必要があります。
掃除機は資産計上できますか?
前述の通り、購入金額が10万円以上の掃除機は、原則として資産計上する必要があります。
10万円以上の備品は、購入した年だけでなく、その後何年にもわたって事業に使用される(価値が持続する)と考えられるため、会計上は「固定資産」として扱われます。
例えば、12万円の掃除機を購入した場合は、「工具器具備品」として資産台帳に記載します。
ただし、中小企業や個人事業主には、処理の負担を減らすための特例措置が用意されています。
一括償却資産
10万円以上20万円未満の資産であれば、この「一括償却資産」として、耐用年数に関わらず3年間で均等に経費化する方法を選べます。
この方法を選ぶメリットとして、後で説明する通常の減価償却のような月割計算が不要である点などが挙げられます。
少額減価償却資産の特例
青色申告を行っている中小企業者や個人事業主の場合、30万円未満の資産であれば、購入・使用開始した年に全額を経費(損金)にできる特例があります。
会計処理としては、購入時に固定資産で計上し、同じ事業年度に減価償却費として全額を費用化(即時償却)します。
なお、この特例の適用期限は、現行制度では2026年3月31日までとされています。
これらの特例を使うと、購入した年の節税効果を高められるメリットがあります。
制度は延長される可能性もありますが、利用時は最新の国税庁や中小企業庁の情報を確認してください。
掃除機の勘定科目と経費処理の注意点
掃除機の勘定科目を判断する基準が分かったところで、次により具体的な処理方法や注意点を見ていきましょう。
特に個人事業主の方が見落としがちな「家事按分」の考え方や、10万円以上の掃除機を購入した際の「減価償却」の具体的な計算、耐用年数について解説します。
また、領収書の取り扱いなど、税務調査で指摘されないためのポイントも紹介します。
自宅兼事務所の経費と家事按分
個人事業主やフリーランスが、自宅兼事務所で一つの掃除機を事業用とプライベート用で共用している場合、購入費用や関連費用(紙パック代など)の全額を経費にすることはできません。
「家事按分(かじあんぶん)」という計算が必要です。
経費として認められるのは、あくまで「事業に使用した分」だけだからです。
家事按分とは、支出全体のうち、事業で使った割合を合理的な基準で算出して経費計上することです。
以下は、合理的な按分基準の例です。
床面積の比率で按分する
例えば、自宅全体の床面積が80平方メートルで、そのうち事務所スペースが20平方メートル(全体の25%)の場合、掃除機の購入費用の25%を経費として計上する方法です。
使用時間の比率で按分する
例えば、1週間のうち、事務所の清掃に使うのが1時間、自宅全体の清掃に使うのが3時間であれば、1時間 / 4時間 = 25% を経費計上する、という考え方もあります。
どちらの方法を選ぶにせよ、税務署から説明を求められた際に、なぜその割合で計算したのかを明確に説明できる根拠を用意しておくことが大切です。
もし計算が面倒であったり、説明に不安があったりする場合は、事業専用の掃除機を別途購入し、事務所スペースのみで使用する方法なども考えられます。
按分した金額を仕訳する際は、プライベート分を「事業主貸」の勘定科目を使って仕訳します。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
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減価償却が必要な場合の仕訳例
10万円以上の掃除機を「工具器具備品」として資産計上した場合、決算時に「減価償却」という会計処理を行います。
これは、資産の価値は時間と共に減少していくという考え方に基づき、購入費用を耐用年数にわたって分割し、毎年少しずつ経費化していく手続きです。
例えば、18万円の掃除機を現金で購入し、耐用年数が6年だった場合を見てみましょう。
購入時の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
工具器具備品 180,000円 | 現金 180,000円 |
決算時の仕訳(毎年)
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 30,000円 | 工具器具備品 30,000円 |
(※180,000円 ÷ 6年 = 30,000円)
この決算時の仕訳を、耐用年数の6年間にわたって毎年行い、購入費用を全額経費化します。
なお、上記の決算仕訳は資産の価値を直接減らす「直接法」と呼ばれる方法です。
会計実務では、資産の取得価額はそのまま残し、「減価償却累計額」という別の勘定科目を使って間接的に価値の減少を示す「間接法」が一般的に多く用いられます。
また、前述の「一括償却資産」の制度(10万円以上20万円未満)を選んだ場合は、耐用年数に関わらず3年間で均等に(18万円÷3年=6万円ずつ)償却します。
決算時の仕訳(間接法の場合)
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 30,000円 | 減価償却累計額 30,000円 |
一括償却資産を選んだ場合
購入時の仕訳
借方 | 貸方 |
---|---|
一括償却資産 180,000円 | 現金 180,000円 |
決算時仕訳(3年間・毎年)
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 60,000円 | 一括償却資産 60,000円 |
国税庁の耐用年数:業務用・ルンバなどのロボット掃除機
掃除機を10万円以上で購入し、減価償却を行う場合の法定耐用年数は、原則として6年を用います。
これは、高価な業務用掃除機や、ルンバなどのお掃除ロボットであっても同様です。
国税庁が定める法定耐用年数表には、「掃除機」という独立した項目は記載されていません。
しかし、会計実務上は「器具及び備品」の中の「電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気・ガス機器」の区分に含まれると解釈されます。
このため、例えばオフィス用に25万円のルンバを購入した場合も、15万円のスティッククリーナーを購入した場合も、処理の分岐点はあくまで購入金額(10万円、20万円、30万円)で判断します。
もし両方とも通常の減価償却を選ぶのであれば、耐用年数は同じく6年を用います。
ルンバなどのお掃除ロボットは高額なモデルも多く、10万円を超えるケースが多々あります。
その際は、購入金額に応じて「一括償却資産」や「少額減価償却資産の特例」を選ぶか、通常の減価償却(工具器具備品)を選ぶか、正しく判断することが求められます。
なお、この法定耐用年数6年というのは、あくまで減価償却費を計算するための税務上のルールです。
実際の製品寿命(メーカー保証期間や耐久性)とは異なる点に注意が必要です。
一部のロボット掃除機の部品保有期間が6年とされていることがありますが、これは税務上の耐用年数とは根拠が異なります。
消費税の処理と領収書の但し書き
10万円未満かどうかの判断は、事業者が採用している消費税の経理処理方法(税込か税抜か)によって変わるため注意が必要です。
税込経理を採用している場合は「税込金額」で、税抜経理を採用している場合は「税抜金額」で判断します。
例えば、税抜98,000円(10%税込107,800円)の掃除機を購入したとします。
- 税込経理の場合:107,800円で判断するため、10万円以上となり、原則資産計上(減価償却)が必要です。
- 税抜経理の場合:98,000円で判断するため、10万円未満となり、「消耗品費」として全額経費計上できます。
このように、経理方法によって処理が大きく変わるため、ご自身の経理方法を確認しましょう。
また、領収書をもらう際は、但し書きを「掃除機代として」と具体的に記載してもらうことが望ましいです。
単に「お品代として」だけでは、後から見返した時や税務調査の際に、何を購入した費用なのか説明する手間が増える可能性があります。
購入金額別に見る掃除機の会計処理まとめ
これまでの内容を、購入金額別にまとめると以下の表のようになります。
ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
購入金額(※) | 勘定科目 | 処理方法 | 主な対象者・注意点 |
---|---|---|---|
10万円未満 | 消耗品費 | 購入時に全額を経費計上 | すべての事業者 |
10万円以上 20万円未満 | 一括償却資産 | 3年間で均等に償却(経費化) | 選択肢の一つ。通常の減価償却も可。 償却資産税の対象外。 |
10万円以上 30万円未満 | 工具器具備品 | 決算時に全額を経費計上 (少額減価償却資産の特例) | 青色申告の中小企業者・個人事業主のみ (年間300万円の上限あり) |
30万円以上 (または特例を使わない場合) | 工具器具備品 | 資産計上し、耐用年数(6年)で減価償却 | 原則的な処理方法 |
※ 金額の判断は、ご自身が採用している消費税の経理処理方法(税込または税抜)で行います。
まとめ:掃除機の勘定科目の選び方
掃除機の勘定科目について解説してきました。最終的にどの勘定科目を選ぶべきか迷った際の判断基準を、改めて整理します。
まず確認すべきは「購入金額」です。これが10万円未満であれば、迷わず「消耗品費」として購入時に全額を経費にできます。
一方で、10万円以上の場合、原則は「工具器具備品」として資産計上し、法定耐用年数6年で減価償却を行います。
ただし、青色申告者であれば30万円未満まで一度に経費にできる「少額減価償却資産の特例」の利用を検討できます。
また、白色申告の場合でも、20万円未満であれば「一括償却資産」として3年で償却する方法も選べます。
加えて、個人事業主が自宅兼事務所で使う場合は、「家事按分」を忘れずに行う必要があります。
このように、掃除機の勘定科目は一つの答えがあるわけではなく、事業者の状況と購入金額によって最適な処理方法が変わります。
ご自身の状況に当てはめて、正しく仕訳を行い、自信を持って経理処理を進めましょう。