経営セーフティ共済は個人事業主の味方?特徴やメリット・デメリットを詳しく解説

個人事業主として事業を営んでいると、日々の業務に加えて、節税対策や万一のリスクへの備えについて考える機会も多いかと思います。

中でも、経営セーフティ共済は多くの方が関心を持つ制度の一つではないでしょうか。

この共済制度は、取引先の倒産という不測の事態から経営を守るだけでなく、掛金を必要経費にできるという側面も持っています。

この記事では、経営セーフティ共済について、個人事業主の方が知りたいポイントを網羅的に、そして分かりやすく解説していきます。

 

本記事のポイント

  • 経営セーフティ共済の基本的な仕組み
  • 個人事業主が享受できるメリットと注意すべきデメリット
  • 節税効果と確定申告の方法
  • 具体的な加入手続きと必要書類
  • 解約や廃業時の対応

 

大金を手に持つ作業服の男性

 

この章では、経営セーフティ共済の基本的な仕組みについて掘り下げていきます。

そもそもどのような制度なのか、加入することでどのようなメリットやデメリットがあるのか、そして掛金の上限や節税効果といった、個人事業主の方がまず知っておくべき核心部分を分かりやすく解説します。

また、加入を検討する上で見落とせない「加入できないケース」についても触れていきますので、ご自身が対象となるかを確認してみましょう。

 

経営セーフティ共済とは?

 

経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産したことにより、ご自身の事業が経営難や連鎖倒産に陥ることを防ぐための国の共済制度です。

正式名称を「中小企業倒産防止共済制度」と言い、法律に基づいて独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。

個人事業主や中小企業は、特定の取引先への依存度が高い場合も少なくなく、1社の倒産が経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

そのため、共済加入者間の相互扶助の精神に基づき、もしもの時に事業資金を借り入れられるセーフティネットとして創設されました。

主な特徴は、取引先が倒産して売掛金などの回収が困難になった際に、無担保・無保証人で、それまでに納付した掛金総額の10倍(上限8,000万円)の範囲内で貸付けを受けられる点です。

ちなみに、よく似た名前の制度に「小規模企業共済」がありますが、こちらは事業をやめた後や退職後の生活資金を積み立てる、経営者のための退職金制度です。

目的が異なるため、両方の加入要件を満たしていれば、同時に加入することもできます。

 

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知っておくべきメリット・デメリット

 

経営セーフティ共済への加入を検討する際は、良い面だけでなく注意すべき点も理解しておくことが大切です。

ここでは主なメリットとデメリットを解説します。

 

メリット

 

取引先の倒産に備えられる

最大のメリットは、不測の事態に備えられる点です。

取引先が倒産した場合に、無担保・無保証人で迅速に資金を借り入れられるため、連鎖倒産を防ぎ、事業の継続を図ることができます。

掛金を必要経費にできる

支払った掛金は、年間最大240万円まで全額を事業上の必要経費として計上できます。

これにより課税対象となる所得を圧縮し、所得税や住民税、事業税の負担を軽減する効果が期待できます。

40カ月以上納付すれば掛金が全額戻る

解約する際には、それまでに支払った掛金に応じて解約手当金が支払われます。

特に、掛金の納付月数が40カ月(3年4カ月)以上であれば、任意解約の場合でも掛金が100%戻ってきます。

臨時の資金需要にも対応できる

取引先が倒産していなくても、急に事業資金が必要になった場合には「一時貸付金」という制度を利用できます。

これは、解約手当金の95%を上限として借り入れができる制度です。

 

デメリット

 

短期解約では元本割れする

掛金の納付月数が40カ月に満たないうちに解約すると、戻ってくる解約手当金が支払った総額を下回ります。

特に12カ月未満の場合は掛け捨てになります。

解約手当金が課税対象になる

解約手当金は、受け取った年の事業収入(雑収入など)として扱われます。

そのため、所得税や住民税などの課税対象となります。

利益が多く出ている年に解約すると、税負担が大きくなる可能性があります。

資金が拘束される

掛金を支払っている期間は、その分のキャッシュが手元からなくなります。

節税になるからといって無理な金額を設定すると、かえって資金繰りを圧迫する可能性もあるため注意が必要です。

 

掛金の経費計上で賢く節税

 

経営セーフティ共済の大きな魅力の一つが、掛金による節税効果です。

支払った掛金は、法人であれば損金に、個人事業主であれば必要経費に算入できます。

これにより、課税の対象となる所得金額を減らすことができるため、結果として所得税や住民税、事業税の負担が軽くなります。

掛金は月額5,000円から20万円の範囲で自由に設定でき、年間では最大240万円まで経費計上が可能です。

例えば、課税所得800万円の個人事業主が年間240万円の掛金を支払った場合、所得税・住民税・事業税を合わせると、数十万円単位での節税効果が見込めるケースもあります。

また、利益が多く出た年度末に、翌年分の掛金をまとめて支払う「前納」も可能です。

最大で1年分を前払いできるため、当年の掛金と合わせて経費計上することで、単年度の節税効果をさらに高めることもできます。

ただし、節税になるからといって安易に加入するのではなく、デメリットも理解した上で総合的に判断することが大切です。

 

確定申告で使う勘定科目は?

 

個人事業主が経営セーフティ共済の掛金を支払った場合、確定申告の際には「租税公課」や「保険料」といった勘定科目で処理することが一般的です。

どちらの勘定科目を使用しても経理上の問題はありませんが、一度決めた科目を継続して使用することが望ましいでしょう。

実務上は、他の保険料との区別を明確にするために「支払保険料」や、補助科目を設定して「(保険料)倒産防止共済掛金」などと管理すると分かりやすくなります。

重要なのは、掛金を必要経費として申告する際に、確定申告書に「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」という書類を添付する必要があることです。

この添付を忘れると、経費として認められない可能性があるため、絶対に忘れないようにしてください。

なお、解約して解約手当金を受け取った場合は、その年の「事業所得」における「雑収入」として計上します。掛金支払時とは異なる処理になる点を覚えておきましょう。

 

 

掛金の上限はいくらですか?個人事業主の場合

 

個人事業主であっても、法人の場合と同様に、積み立てられる掛金の総額の上限は800万円です。

月々の掛金は、事業の状況に応じて5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で自由に選択できます。

この掛金を毎月納付していき、積み立てた合計額が800万円に達すると、それ以上の掛金を支払うことはできなくなり、支払いは自動的に停止されます。これを「掛止め」と言います。

一度掛止めになっても、共済金の貸付けを受けて掛金総額が800万円を下回った場合などには、再び掛金の納付を再開することが可能です。

この800万円という積立限度額は、共済金の貸付上限額である8,000万円(掛金総額の10倍)の基礎となる金額です。

ご自身の事業のリスク許容度や資金計画に合わせて、無理のない範囲で月々の掛金額を設定することが肝心です。

 

こんな人は注意!経営セーフティ共済に入れない人

 

経営セーフティ共済は、すべての個人事業主が加入できるわけではなく、いくつかの加入要件と加入できないケース(欠格事由)が定められています。

 

加入するための主な要件

 

  • 事業継続期間: 継続して1年以上事業を行っていることが必要です。そのため、開業して1年未満の個人事業主は原則として加入できません。
  • 業種ごとの従業員数: 加入できるのは、常時使用する従業員数が下表の条件を満たす個人事業主です。

 

業種 常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業など 300人以下
卸売業 100人以下
サービス業 100人以下
小売業 50人以下
ゴム製品製造業 900人以下
ソフトウェア業・情報処理サービス業 300人以下
旅館業 200人以下
(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済の加入資格」

 

加入できない主なケース

 

  • 事業を開始して1年未満の場合
  • 納付すべき所得税を滞納している場合
  • 事業の経理内容が不明瞭な場合
  • 住所や事業の変更を繰り返し、実態の把握が困難な場合
  • すでに加入者となっている場合(重複加入はできません)
  • 反社会的勢力に該当する場合

また、不動産所得のみで事業所得がない方や、一般消費者を取引先とするBtoC事業で売掛金債権等が生じない業種は、制度の趣旨から貸付けの対象とならない場合があり、加入にあたって注意が必要です。

経営セーフティ共済を個人事業主が活用する手続き

 

書類を読む作業着の男性

 

この章では、経営セーフティ共済への加入を決めた、あるいは具体的に検討している個人事業主の方に向けて、より実践的な手続きや注意点を解説します。

どこで申し込むのか、どのような書類が必要になるのかといった具体的な加入方法から、廃業や収入減少といった万一の事態にどう対応すればよいのか、そして見落としがちなデメリットまで、一歩踏み込んだ情報を提供します。

 

加入の申し込みはどこですべきか

 

経営セーフティ共済への加入申し込みは、主に以下の窓口で行うことができます。

  1. 金融機関の窓口普段から事業用の口座として取引のある銀行(都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合など)の本支店が代理店となっています。融資などで付き合いのある金融機関に相談するのが最もスムーズな方法の一つです。
  2. 商工会・商工会議所などの委託団体商工会や商工会議所、中小企業団体中央会、事業協同組合など、中小機構が業務を委託している団体に加入している場合は、その団体を通じて申し込むことができます。

オンラインで申込書を作成するサービスもありますが、最終的には上記の窓口に書類を提出する必要があります。

どこで申し込むか迷った場合は、まずは事業用口座を開設している金融機関に問い合わせてみるのが良いでしょう。

担当者から必要書類や手続きの流れについて詳しい説明を受けることができます。

 

手続きで使う必要書類一覧

 

経営セーフティ共済の加入手続きには、いくつかの書類を準備する必要があります。

不備があると手続きが遅れてしまうため、事前にしっかりと確認しておきましょう。

個人事業主が申し込む場合に、主に必要となる書類は以下の通りです。

 

  • 契約申込書:申込窓口で受け取るか、中小機構のウェブサイトからダウンロードできます。
  • 掛金預金口座振替申出書:掛金の引き落とし口座を指定するための書類です。
  • 本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカードなど、申込者本人の確認ができる書類の提示を求められることがあります。
  • 所得税の確定申告書の控え:直近の確定申告書の控えが必要です。税務署の受付印があるもの、またはe-Taxの場合は受信通知(メール詳細)を添付します。

※白色申告の場合、所得税の確定申告書を作成する際に使用した帳簿など売上や経費が記載された帳簿の写しなど、事業を行っている実態がわかる書類が求められる場合があります。

 

これらの書類に加えて、事業内容によっては追加の書類が必要になるケースもあります。

手続きをスムーズに進めるためにも、事前に申し込む予定の窓口に連絡し、必要書類について正確な情報を確認しておくことをお勧めします。

 

廃業や万一の収入減少に備える

 

事業を続けていく中で、廃業を決断したり、予期せぬ事態で収入が大幅に減少したりすることもあり得ます。

経営セーフティ共済は、そうした状況にも対応する仕組みを備えています。

 

廃業する場合

 

個人事業主が事業を廃止した場合は「みなし解約」という扱いになり、解約手当金を受け取ることができます。

任意解約よりも高い支給率が設定されており、掛金を36カ月以上納付していれば、掛金の全額が戻ってきます。

手続きには、解約手当金請求書や廃業の事実が確認できる公的な書類などが必要です。

 

収入が減少した場合

 

病気や業績不振などで収入が著しく減少し、掛金の支払いが困難になった場合は、掛金の月額を減額することができます。

最低5,000円まで引き下げることが可能です。また、一定期間、掛金の支払いを停止する「掛止め」という手続きも選択できます。

これにより、無理なく共済契約を継続することができます。

このように、事業の状況変化に柔軟に対応できる仕組みがあることも、この制度の特長の一つです。

ただし、いずれの手続きにも所定の要件や書類が必要となるため、該当する事態になった場合は速やかに中小機構や申込窓口に相談しましょう。

 

経営セーフティ共済の注意点は?

 

前述の通り、この制度にはメリットだけでなく、注意すべき点も存在します。

特にキャッシュフローや税金面での影響を事前に理解しておくことが、後悔しないための鍵となります。

ここでは改めてデメリットを掘り下げて確認します。

 

貸付を受けると掛金の一部がなくなる

 

取引先の倒産により共済金の貸付けを受ける際、制度上は無利子とされています。

しかし、借入額の10分の1に相当する金額が、それまでに積み立てた掛金総額から強制的に解約(控除)される仕組みになっています。

例えば、1,000万円を借り入れた場合、100万円分の掛金が積立額から差し引かれてしまいます。

これは実質的なコストと考えることもでき、決して無視できない負担と言えます。

 

解約のタイミングを間違えると損をする

 

掛金の納付期間が40カ月未満で自己都合により解約すると、戻ってくる解約手当金は支払った総額を下回ります。

納付期間ごとの支給率は以下の通りです。

 

掛金納付月数 任意解約の支給率
1ヶ月~11ヶ月 0%
12ヶ月~23ヶ月 80%
24ヶ月~29ヶ月 85%
30ヶ月~35ヶ月 90%
36ヶ月~39ヶ月 95%
40ヶ月以上 100%
(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「共済契約の解約」

 

特に12カ月未満での解約は全額が掛け捨てとなるため、資金繰りに余裕がない状態での加入は慎重に検討する必要があります。

 

「出口戦略」が欠かせない

 

解約手当金は、受け取った年の事業収入に加算され、課税対象となります。

積立額が大きくなっている状態で解約すると、その年の所得が急増し、結果として多額の税金が発生する可能性があります。

事業を廃業するタイミングや、大きな設備投資などで経費がかさむ年に解約するといった、税負担を考慮した「出口戦略」をあらかじめ考えておくことが極めて大切です。

 

まとめ:経営セーフティ共済は個人事業主の強い味方

 

この記事では、経営セーフティ共済について、個人事業主の視点から多角的に解説しました。

この制度は、取引先の倒産という万一のリスクに備えながら、節税もできる、個人事業主にとって心強い制度です。

月々5,000円という少額から始められ、事業の状況に合わせて掛金額を柔軟に見直せる点も大きな魅力と言えます。

しかし、その一方で、短期解約による元本割れのリスクや、解約手当金が課税対象となるという重要な注意点も存在します。

節税というメリットだけに目を向けるのではなく、本来の目的である「連鎖倒産防止のための備え」というセーフティネットとしての役割を第一に考えることが肝心です。

ご自身の事業の状況、将来のキャッシュフロー計画、そして廃業なども含めた長期的な視点を持ち、制度のメリットとデメリットを十分に天秤にかけた上で活用を検討することが、この制度との賢い付き合い方です。

この記事が、あなたの適切な判断の一助となれば幸いです。

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