建設業を営む上で、資金繰りは常に大きな課題です。特に、工事期間が長く、入金サイクルが遅れがちな建設業では、「受注はしているのに手元の資金が足りない」という状況に陥りやすいものです。
この記事では、そんな建設業の資金繰りを改善する一つの方法として注目されている「注文書ファクタリング」について、その仕組みやメリット・デメリット、請求書ファクタリングとの違いを詳しく解説します。
さらに、個人事業主やフリーランスの方も利用できるのか、おすすめのファクタリング会社や手数料の相場、銀行融資との違いまで、建設業者が注文書ファクタリングを検討する上で知りたい情報を網羅的にお伝えします。
本記事のポイント
- 注文書ファクタリングの仕組み(受注時点で資金化できる仕組み)
- 請求書ファクタリングとの主な違い(資金化タイミングと短縮日数)
- 利用時のメリット・デメリット(手数料相場やリスク回避など)
- 対象となる「注文書」の要件(必要記載項目や補足資料)
- 建設業向けのおすすめファクタリング会社と選定ポイント
注文書ファクタリング建設業|基礎知識と仕組み
このセクションでは、建設業における資金調達の新常識、「注文書ファクタリング」の基本的な知識を解説します。
請求書ファクタリングとの明確な違い、利用することで得られるメリットと注意すべきデメリット、そして「注文書だけで本当に資金化できるのか?」という疑問にお答えします。
さらに、見積書ファクタリングとの関連や、ファクタリング対象となる「注文書」とは具体的にどのようなものかを理解し、スムーズな資金調達への第一歩を踏み出しましょう。
注文書ファクタリングとは?請求書との違い
注文書ファクタリングとは、仕事を受注した際に発行される「注文書(発注書)」をファクタリング会社に売却することで、早期に資金化するサービスです。
これに対して、従来の請求書ファクタリングは、商品やサービスの提供が完了した後に発行される「請求書」を売却するものです。
最大の違いは「資金化のタイミング」にあります。
請求書ファクタリングは納品後でないと利用できませんが、注文書ファクタリングは仕事を受注した、つまり「注文書」が発行された時点で利用できます。
建設業のように、着工から入金まで時間がかかる業種では、材料費や人件費といった先行投資が必要不可欠です。
注文書ファクタリングを利用すれば、これらの費用を工事が始まる前に調達できるため、資金繰りの安定化に大きく貢献します。
請求書ファクタリングが約30日〜90日の支払いサイト短縮であるのに対し、注文書ファクタリングは最大で180日もの短縮が可能になる場合もあり、より早い資金調達を実現できる点が大きな特徴です。
関連記事:ファクタリングは請求書のみで利用できる?個人事業主・フリーランス向けに解説
注文書ファクタリングのメリット・デメリット
注文書ファクタリングには、多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。
利用を検討する際は、両方を理解しておくことが重要です。
メリット
- 仕事が始まる前に資金化できる: 受注時点で資金調達できるため、材料費や人件費を前もって準備でき、大型案件にも対応しやすくなります。
- 支払いサイトを大幅に短縮できる: 最大で6ヶ月先の注文書も買取可能な場合があり、キャッシュフローを劇的に改善できます。
- 売掛先に知られずに利用できる: 基本的に2社間契約のため、取引先にファクタリング利用を知られる心配がなく、信用不安を避けられます。
- 売掛金の未回収リスクを回避できる: 償還請求権なし(ノンリコース)の契約であれば、万が一売掛先が倒産しても、利用者が返済義務を負うことはありません。
- 審査に通りやすい: 銀行融資と異なり、売掛先の信用力が重視されるため、自社が赤字決算や税金滞納でも利用できる可能性があります。
デメリット
- 手数料が高くなる傾向がある: 請求書ファクタリングや3社間ファクタリングに比べ、ファクタリング会社のリスクが高いため、手数料が高めに設定されることが多いです。(相場:10%〜30%程度)
- 提供している会社が少ない: 比較的新しいサービスのため、取り扱っているファクタリング会社が限られます。
- 審査ハードルが高い場合がある: 未回収リスクが高いため、売掛先の信用力は厳しく審査されます。
注文書だけでファクタリングできる?
結論から言うと、「注文書だけ」でファクタリングを利用することは可能です。
注文書ファクタリングは、その名の通り、発注元から受け取った「注文書」や「発注書」を売掛債権として買い取ってもらうサービスです。
ただし、ファクタリング会社によっては、注文書に加えて、取引の確実性を証明するための補足資料(契約書、過去の取引実績がわかる通帳のコピーなど)の提出を求められる場合があります。
特に、初めての取引先や信用情報が確認しにくい相手の場合は、追加書類が必要になる可能性が高いでしょう。
重要なのは、「仕事の受注が確定していること」を客観的に証明できるかどうかです。
注文書以外でも、メールでの発注指示など、受注が確認できる資料があれば対応してくれる会社もありますので、まずは相談してみることをおすすめします。
見積書ファクタリングとの関連性
注文書ファクタリングと似たサービスとして、「見積書ファクタリング」を耳にすることがあるかもしれません。
しかし、一般的に「見積書」だけでのファクタリングは非常に困難、あるいは不可能です。
見積書は、あくまで「これくらいの金額で仕事ができます」という提案段階の書類であり、契約が成立しているわけではありません。そのため、ファクタリング会社にとって、見積書は債権として認められず、買取の対象にはなりません。
一部のファクタリング会社では、「見積書・受注書・発注書ファクタリング」といった名称でサービスを提供している場合がありますが、これは実質的に「注文書(受注書・発注書)」を対象としたファクタリングであることがほとんどです。
もし「見積書でもOK」とうたう業者があれば、それはファクタリングを装った高金利の貸付(ヤミ金融)である可能性もあるため、注意が必要です。
ファクタリングの注文書とは具体的に?
ファクタリングの対象となる「注文書」とは、単なるメモや口約束ではなく、正式に仕事の発注があったことを証明する書類を指します。
具体的には、以下の情報が記載されているものが一般的です。
- 発注者と受注者の情報: 会社名、住所、連絡先など。
- 発注日: 注文があった日付。
- 案件名・工事名: 具体的な仕事の内容。
- 契約金額: 受注した金額。
- 納期・工期: 仕事を完了させる期限。
- 支払い条件: 支払日や支払い方法。
- その他特記事項:
これらの情報が明確に記載されていることで、ファクタリング会社は「確かにこの金額の仕事が受注されており、将来的に入金が見込める」と判断し、買取を行うことができます。
建設業法では、工事の請負契約を書面で行うことが定められているため、適切な注文書・注文請書のやり取りが、ファクタリング利用の前提となります。
注文書ファクタリング|建設業におすすめの会社と選び方
ここでは、建設業者が注文書ファクタリングを利用する際に、どのような視点で会社を選べばよいのか、具体的なポイントを解説します。
数あるファクタリング会社の中から、自社に最適なパートナーを見つけるためのヒントを提供します。
個人事業主やフリーランスの方に向けた情報、気になる手数料相場、そして代表的なファクタリング会社や銀行融資との違いについても触れていきます。
建設業向けファクタリングのおすすめは?
建設業者がファクタリング会社を選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。
特に注文書ファクタリングを利用する場合は、以下の点を考慮して比較検討することをおすすめします。
選定のポイント
- 建設業への理解・実績: 支払いサイトの長さなど、建設業特有の事情を理解し、実績が豊富な会社は、柔軟な審査や対応が期待できます。
- 注文書ファクタリング対応: 必ず注文書ファクタリングに対応しているか確認しましょう。
- 手数料: 上限手数料が低い会社を選びましょう。建設業はリスクが高いと見なされ、上限手数料が適用されやすいためです。
- 入金スピード: 最短即日や数時間で対応してくれる会社は、急な資金需要に応えられます。
- 買取限度額: 高額案件に対応できるか、上限額を確認します。
- 2社間ファクタリング対応: 取引先に知られたくない場合は、2社間ファクタリングが必須です。
- オンライン完結: 地方の事業者や、手間を省きたい場合に便利です。
個人事業主・フリーランスも利用可能?
個人事業主やフリーランスの方でも注文書ファクタリングを利用することは可能です。
建設業では一人親方として活動されている方も多く、そうした方々にとっても注文書ファクタリングは有効な資金調達手段となります。
ただし、法人に比べて審査のハードルがやや高くなる傾向があることや、利用できるファクタリング会社が限られる場合がある点には注意が必要です。
ファクタリング会社は、取引の安定性や売掛先の信用力を重視するため、個人事業主の場合は、売掛先が法人であること(特に大手や公的機関)が審査通過のポイントになります。
この記事で紹介している「ビートレーディング」や「けんせつくん」、「ファクタリングのTRY」などは、個人事業主にも対応しているファクタリング会社です。
まずは、個人事業主に対応しているかどうかを確認し、相談してみることをおすすめします。
建設ファクタリングの手数料はいくら?
建設業におけるファクタリングの手数料は、いくつかの要因によって変動しますが、一般的な請求書ファクタリングよりも高めに設定される傾向があります。
特に注文書ファクタリングの場合、納品前に資金化するため、ファクタリング会社のリスクが高くなることが主な理由です。
手数料の相場
- 注文書ファクタリング(2社間): 10% 〜 30% 程度
- 請求書ファクタリング(2社間): 8% 〜 18% 程度
- 請求書ファクタリング(3社間): 2% 〜 9% 程度
建設業の場合、支払いサイトが長くなることが多く、未回収リスクが高いと判断されやすいため、手数料の上限に近い料率が適用されるケースも少なくありません。
手数料を少しでも抑えるためには、複数のファクタリング会社から見積もりを取り、比較検討することが重要です。
また、売掛先の信用力が高い案件を選ぶ、可能な範囲で3社間ファクタリングを検討する(取引先に知られるリスクはあります)、といった方法も考えられます。
関連記事:ファクタリング手数料の安い会社を比較!知っておきたい相場・内訳等も解説
ビートレーディングの注文書ファクタリング
ビートレーディングは、業界最大手の一つであり、注文書ファクタリングにも積極的に対応している会社です。
建設業を含む多くの業種で豊富な実績を持っています。
ビートレーディングの注文書ファクタリングの特徴
- 業界大手としての信頼性: 累計取引件数7.1万件、取扱高1,550億円以上の実績があります。
- 迅速な対応: 最短2時間での入金が可能で、審査も最短30分です。
- 手続きの簡便さ: 必要書類は基本的に「注文書」と「通帳のコピー」の2点のみで、オンライン完結も可能です。
- 柔軟な対応: 買取額に上限・下限がなく、個人事業主にも対応しています。赤字決算や税金滞納でも相談可能です。
- POファイナンス®との連携: 受注時点での融資サービスを展開するTranzax株式会社と協力し、注文書ファクタリングを提供しています。
建設業特有の長い支払いサイトや、急な資金需要に対応できる体制が整っているため、多くの建設業者にとって頼れる選択肢の一つとなるでしょう。
公式サイト:ビートレーディング
注文書担保融資・銀行融資との違いは?
注文書ファクタリングは資金調達の一つの方法ですが、「注文書担保融資」や「銀行融資」とは異なる性質を持っています。
- 銀行融資: 金融機関からお金を「借りる」行為です。審査が厳しく、時間がかかる傾向がありますが、金利は比較的低めです。決算書の内容や担保・保証人が重視され、負債として計上されます。
- 注文書担保融資: 注文書を「担保」にしてお金を借りる方法です。融資の一種であるため、基本的には借入となり、負債として計上されます。ファクタリングよりも提供している金融機関は少ないかもしれません。
- 注文書ファクタリング: 注文書(売掛債権)を「売却」する行為です。借入ではないため、負債にはならず、信用情報にも影響しません。審査は売掛先の信用力が重視され、スピーディーな資金調達が可能です。ただし、手数料は融資の金利よりも高くなる傾向があります。
「注文書で融資」という言葉を聞いた場合、それが注文書担保融資なのか、ファクタリングを指しているのかを確認することが大切です。
資金調達の目的や緊急度、自社の状況に合わせて、最適な方法を選択しましょう。
注文書ファクタリング建設業|Q&Aと注意点
最後に、注文書ファクタリングを建設業で利用するにあたり、よく寄せられる質問や、特に注意しておきたい点について解説します。
建設業法における注文書の重要性や、特定のサービスに関する情報、そして一般的な疑問点を解消し、安心して注文書ファクタリングを活用するための知識を深めましょう。
思わぬトラブルを避けるためにも、事前に確認しておくことが大切です。
建設業で注文書は必須ですか?
建設業においては、原則として契約を書面(注文書・注文請書や契約書)で行うことが建設業法で義務付けられています。
口約束だけでも契約自体は民法上成立しますが、建設業法違反となる可能性があります。
これは、工事の規模や金額に関わらず、たとえ少額の工事であっても適用されます。建設業法で認められている契約方法は以下のいずれかです。
- 請負契約書
- 基本契約書 + 注文書・注文請書の交換
- 注文書・注文請書の交換
注文書は「申込み」、注文請書は「承諾」にあたり、この2つがセットになって初めて契約が書面で成立したと見なされます。したがって、建設業を営む上で、適切な注文書・注文請書を作成し、交換することは法的な義務であり、ファクタリングを利用する上でも、その債権の存在を証明する重要な書類となります。
GMO注文書ファクタリングについて
「GMO注文書ファクタリング」という名称の特定のサービスは、現時点では広く認知されているものは見受けられません。
しかし、GMOペイメントゲートウェイグループでは、BtoB向けの決済・金融関連サービスを多数展開しています。
その中に、「GMO B2B 早払い」というサービスがあります。
これは、請求書を早期に資金化するファクタリングサービスであり、注文書ファクタリングとは異なりますが、BtoB取引における資金繰り支援という点では関連性があります。
もし「GMO」というブランド名で注文書ファクタリングを検討している場合は、GMOペイメントゲートウェイやその関連会社が提供する最新のサービス内容を確認するか、他のファクタリング会社がGMO関連の取引(例えば、GMO系列企業への売掛債権)を扱っているかなどを個別に問い合わせる必要があります。
よくある質問(Q&A)
ここでは、注文書ファクタリングに関するよくある質問にお答えします。
Q1: 仕事が始まる前でも利用できますか?
A: はい、注文書が発行され、受注が確定していれば、仕事に着手する前でも利用できます。注文書、発注書、契約書などの資料が必要です。
Q2: 個人事業主でも利用できますか?
A: はい、多くのファクタリング会社で個人事業主も利用可能です。ただし、売掛先は法人であることが条件となる場合が多いです。
Q3: 取引先に知られますか?
A: 基本的に2社間ファクタリングで契約するため、取引先に通知や承諾は不要であり、知られる心配はありません。
Q4: 手数料の相場はどれくらいですか?
A: 請求書ファクタリングよりも高くなる傾向があり、10%〜30%程度が相場ですが、業者や案件によって異なります。
Q5: 審査は厳しいですか?
A: 銀行融資よりは通りやすい傾向にありますが、売掛先の信用力は重視されます。未回収リスクが高いため、請求書ファクタリングよりは審査が慎重になる場合があります。
Q6: 悪徳業者を見分けるポイントは?
A: 手数料が相場より極端に低い、審査なしで利用できる、契約内容が不明瞭などの場合は注意が必要です。会社の信頼性や実績、契約内容をしっかり確認しましょう。金融庁も注意喚起しています。
Q7: 売掛債権の二重譲渡は?
A: 絶対に避けるべきです。一つの売掛債権を複数のファクタリング会社に売却することは、詐欺罪や横領罪に問われる可能性があり、刑事罰や損害賠償請求のリスクがあります。
まとめ:注文書ファクタリングで建設業の未来を拓く
この記事では、注文書ファクタリングの基礎知識から、建設業におけるメリット・デメリット、おすすめの会社の選び方、そして注意点までを解説しました。
注文書ファクタリングは、建設業特有の長い支払いサイトによる資金繰りの課題を解決し、仕事を受注した段階で早期に資金化できる画期的な方法です。
これにより、材料費や人件費の支払いに悩むことなく、大型案件の受注や事業拡大のチャンスを掴むことが可能になります。
個人事業主やフリーランスの方でも利用でき、手数料や入金スピード、2社間契約の可否などを比較検討し、自社に最適なファクタリング会社を選ぶことが重要です。ビートレーディングのように実績豊富な会社もあれば、けんせつくんのように建設業に特化した会社もあります。
利用する際は、手数料が高めになる傾向や、悪徳業者の存在などのデメリットや注意点も理解し、銀行融資や注文書担保融資との違いも把握した上で、賢く活用しましょう。
この記事が、建設業で奮闘する皆様の資金繰り改善の一助となり、安定した経営と事業成長の未来を拓くきっかけとなれば幸いです。