前受収益とは? 勘定科目が負債の理由・仕訳・前受金との違いを解説

経理処理を行う中で、前受収益という勘定科目の扱いに迷った経験はありませんか。

この記事では、前受収益という勘定科目の基本的な意味から、具体的な仕訳の方法、さらには混同しやすい他の勘定科目との違いに至るまで、分かりやすく解説していきます。

この記事を読むことで、以下の点について理解を深められます。

 

  • 前受収益という勘定科目の基本的な意味
  • 前受収益と前受金や長期前受収益との違い
  • 前受収益の仕訳例

 

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前受収益の勘定科目に関する基本的な理解

 

ここでは、前受収益という勘定科目が持つ基本的な意味合いについて焦点を当てます。

そもそも前受収益とは何なのか、なぜそれが資産や収益ではなく「負債」として扱われるのか、その理由を深く掘り下げます。

あわせて、貸借対照表における具体的な分類や、似ている勘定科目との違いについても明確にしていきます。

 

前受収益とは?

 

前受収益とは、まだ提供していないサービス(役務)に対して先に受け取った代金を処理するための勘定科目です。

企業会計においては、収益や費用を、それらが発生した適切な期間に割り当てる必要があります。

これを「期間損益計算」と呼びます。

前受収益は、この期間損益計算を正しく行うために使用される「経過勘定」の一つです。

例えば、以下のようなケースで前受収益が用いられます。

 

  • 1年分の家賃や地代を前受けした場合の、まだ経過していない期間の分
  • 年間契約の保守サービス料やコンサルティング料を受け取った場合の未提供期間の分
  • サブスクリプションサービスの年間利用料を一括で受け取った場合の未経過月数分
  • まだ期限が来ていない受取利息

 

このように、一定の契約に基づいて「継続的に」サービスを提供する場合に発生するのが特徴です。

受け取った代金全額をその期の収益とするのではなく、未提供のサービスに相当する金額を「前受収益」として処理し、翌期以降に繰り延べます。

 

前受収益が負債である理由

 

代金を先に受け取っているにもかかわらず、なぜ前受収益は「負債」に分類されるのでしょうか。

これは、会計上の「負債」が、単に「借金」だけを意味するのではないためです。

会計において負債とは、将来的に金銭やサービスを引き渡す「義務」のことも指します。

前受収益の場合、企業は代金を受け取ったと同時に、「契約期間が満了するまでサービスを提供し続けなければならない」という義務を負うことになります。

もし、何らかの理由でサービスを提供できなくなった場合には、受け取った代金を返金する義務も発生するかもしれません。

このように、将来的に果たさなければならない「義務」を負っている状態を示すため、前受収益は貸借対照表の「負債の部」に計上されます。

収益という言葉が含まれているため混乱しやすいですが、会計上の本質は「義務」であると理解することが大切です。

 

流動負債とは

 

前受収益は、貸借対照表の負債の部の中でも、原則として「流動負債」に分類されます。

会計ルールには「ワン・イヤー・ルール(1年基準)」というものがあり、決算日の翌日から起算して1年以内に支払期限や返済期限が来る負債を「流動負債」、1年を超えるものを「固定負債」と区分します。

前受収益は、通常1年契約の家賃や保守料など、1年以内にサービス提供が完了し、収益として認識されるものが多いため、流動負債に該当します。

ただし、企業の主たる営業活動の中で発生する債権や債務は、1年を超えても流動資産・流動負債に分類するという「正常営業循環基準」が優先される場合もあります。

 

長期前受収益との違い

 

前受収益とよく似た勘定科目に「長期前受収益」があります。

この二つを区別する基準は、前述の「ワン・イヤー・ルール(1年基準)」です。

  • 前受収益(流動負債): 決算日の翌日から起算して、1年以内にサービス提供が完了し収益化されるもの。
  • 長期前受収益(固定負債): 決算日の翌日から起算して、収益化されるまで1年を超えるもの。

例えば、3年契約の保守サービス料を一括で受け取った場合、決算時には、翌1年以内に収益化される分を「前受収益」とし、1年を超えて収益化される2年目・3年目分を「長期前受収益」として固定負債に計上する必要があります。

そして、翌期の決算時には、長期前受収益として計上していたもののうち、さらにその次の1年以内に収益化される分を「前受収益」に振り替える処理を行います。

 

前受収益と前受金の違い

 

前受収益と最も混同しやすい勘定科目が「前受金」です。

どちらも「先に代金を受け取る」「負債に分類される」という点で共通していますが、その性質は明確に異なります。

最も大きな違いは、「継続性」の有無と「収益化のタイミング」です。

以下の表で違いを整理します。

 

項目 前受収益 前受金
性質 継続的なサービスの対価 単発の商品やサービスの対価
収益化 時間の経過とともに収益化 商品の引渡し等で収益化
具体例 家賃、サブスク料、年間保守料 商品(特に受注生産品)の手付金、内金、予約金
分類 経過勘定(負債) 一般的な負債

 

前受金は、商品の引き渡しや単発の工事が完了した時点で、全額が売上(収益)に振り替えられます。

一方で、前受収益は「時間の経過」に応じて、月割りや日割りなどで按分され、少しずつ収益化されていく点が主な違いです。

 

前受収益の仕訳例

 

前受収益の仕訳は、主に2つの方法があります。

一つは、期中の入金時にいったん全額を「売上」として計上し、決算時に未経過分を「前受収益」に振り替える方法です。

もう一つは、実務で広く用いられる、入金時に未経過分も含めて全額を「前受収益」として計上する方法です。

ここでは、会計期間が1月1日から12月31日までの期間を例に、両方の流れを見てみましょう。

 

【仕訳例】

9月1日に、向こう1年分(当年9月~翌年8月)の保守サービス料120,000円が普通預金に振り込まれた。(1ヶ月あたり10,000円)

 

方法1:入金時に売上計上し、決算で繰り延べる方法

入金時(9月1日)の仕訳

 

借方 金額 貸方 金額
普通預金 120,000 保守売上 120,000

 

この方法では、入金時に受け取った全額を「保守売上」(または「売上」)として計上します。

 

決算時(12月31日)の仕訳

 

決算日を迎えたら、当期の収益と翌期の収益を正しく分ける処理(決算整理仕訳)を行います。

  • 当期分の4ヶ月分: 10,000円 × 4ヶ月 = 40,000円
  • 翌期分の8ヶ月分: 10,000円 × 8ヶ月 = 80,000円

この翌期分にあたる80,000円を、当期の「売上」から減額し、「前受収益」として翌期に繰り越します。

 

借方 金額 貸方 金額
保守売上 80,000 前受収益 80,000

 

翌期首(1月1日)の仕訳

 

翌期の期首(1月1日)になったら、前期の決算で行った仕訳の逆の仕訳(再振替仕訳)を行います。

これにより、前期に「前受収益」として繰り越した80,000円を、当期(翌期)の「保守売上」として計上します。

 

借方 金額 貸方 金額
前受収益 80,000 保守売上 80,000

 

方法2:入金時に前受収益で計上する方法

 

実務では、入金時に全額を「前受収益」として計上する方法も広く用いられます。

 

入金時(9月1日)の仕訳

 

入金された全額を、将来サービスを提供する義務として「前受収益」で計上します。

 

借方 金額 貸方 金額
普通預金 120,000 前受収益 120,000

 

決算時(12月31日)の仕訳

 

決算時に、当期にサービスを提供した分(4ヶ月分=40,000円)を「前受収益」(負債)から減額し、当期の「保守売上」(収益)に振り替えます。

 

借方 金額 貸方 金額
前受収益 40,000 保守売上 40,000

 

翌期首(1月1日)の仕訳は不要

 

この方法の場合、決算時に翌期への繰越処理を行っていないため、翌期首の再振替仕訳は不要です。

翌期は、時間の経過とともに残りの前受収益を売上に振り替えていきます。

 

まとめ

 

この記事では、前受収益 勘定科目の基本的な考え方から、具体的な仕訳処理、混同しやすい科目との違いについて解説しました。

前受収益 勘定科目は、特にサブスクリプションサービスや年間保守契約、不動産賃貸など、継続的なサービスを提供するビジネスにおいて、正確な損益計算を行うために不可欠な知識です。

代金を受け取った時点では収益ではなく、サービスを提供する「義務」が残っているため「負債」として扱うという点が、最も大切なポイントです。

また、単発の取引で使う「前受金」や、1年を超える契約で使う「長期前受収益」との違いを明確に区別し、自社の取引内容に応じて正しく使い分けることが必要です。

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