個人事業主のふるさと納税の勘定科目は?仕訳と経費ルールを解説

個人事業主として日々の業務に追われている中で、節税効果が期待できるふるさと納税を活用しようと考える方は多いはずです。

しかし、いざ申し込みをする段階になって、手元にある事業用のクレジットカードで決済をしてしまい、後から帳簿をつける際に勘定科目や仕訳の方法で手が止まってしまうケースは少なくありません。

基本的に事業の経費として落とせるのか、それともプライベートな出費として扱うべきなのか、正しい知識がないと確定申告の時期に慌てることになります。

この記事では、そのような迷いを解消するために、正しい会計処理のルールや具体的な記帳方法についてわかりやすく解説します。

 

本記事のポイント

* ふるさと納税の勘定科目
* 事業用クレジットカードや口座引き落としの仕訳方法
* 確定申告で寄附金控除を受けるために必要な手続きと書類
* 法人と個人事業主におけるふるさと納税の扱いの違い

 

個人事業主のふるさと納税における勘定科目

 

個人事業主がふるさと納税を行った際、多くの人が最初に直面するのが「これは経費になるのか」「どの勘定科目を使えばいいのか」という疑問です。

事業用の資金を使った場合、感覚的には経費のように思えるかもしれませんが、税務上のルールは明確に決まっています。

ここでは、ふるさと納税が会計上どのように扱われるのか、そして正しい勘定科目である「事業主貸」の考え方について、法人との違いも交えながら解説します。

ふるさと納税は経費として処理できますか?

 

多くの個人事業主が期待することの一つに、ふるさと納税を経費として計上し、節税につなげたいという思いがあるかもしれません。

しかし、原則として個人事業主が行うふるさと納税は経費として処理することはできません。

なぜなら、ふるさと納税はあくまで「個人」が自治体に対して行う寄付行為であり、事業の売上を獲得するために直接必要な費用とは認められないからです。

事業の経費とは、商品の仕入れ代金や事務所の家賃、通信費など、事業を運営するために不可欠な支出を指します。

個人的な税金の控除を受けるための支出であるふるさと納税は、事業活動とは切り離して考える必要があります。

したがって、領収書や受領証明書があったとしても、

これを「租税公課」や「消耗品費」などの経費科目で処理してしまうと、税務調査で否認されるリスクが高まります。経費にはなりませんが、後述するように「寄附金控除」という形で、所得税や住民税の計算において税負担を軽減する仕組みが用意されています。

経費計上はできないものの、節税メリット自体がなくなるわけではありません。

経費ルールと勘定科目の基本

 

前述の通り、ふるさと納税は事業の必要経費には該当しません。

このルールは、どのような支払い方法を選んだとしても変わらない基本的な原則です。

たとえ事業用のメインバンクから振り込んだり、屋号付きのクレジットカードで決済したりしても、支出の性質が「個人的な寄付」であることに変わりはないからです。

会計処理を行う上で理解しておきたいのは、個人事業主の財布には「事業用」と「プライベート用」の二つの側面があるものの、法的な主体は同一人物であるという点です。

そのため、事業用の資金から個人的な支払いを行うこと自体は問題ありませんが、帳簿上では「事業のお金を個人のために使った」という記録を正確に残す必要があります。

誤って「接待交際費」や「寄付金(経費)」として処理してしまうと、本来納めるべき税額よりも少なく申告することになり、修正申告や追徴課税の対象となり得ます。

正しいルールを理解し、事業の経費と個人の支出を明確に区分けすることが、健全な事業運営の第一歩となります。

参考:国税庁 No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)

 

ふるさと納税の勘定科目

 

個人事業主が事業用の資金を使ってふるさと納税を行った場合、使用すべき正解の勘定科目は「事業主貸(じぎょうぬしかし)」です。

事業用の預金口座からお金が減った場合、その相手となる科目が経費でないならば、お金の使い道を示す必要があります。

ふるさと納税はプライベートな支出ですので、事業から見れば「事業主個人が使うために持ち出したお金」となります。これを記録するのが事業主貸の役割です。

事業主貸で処理された金額は、決算書において経費には算入されません。

そのため、どれだけ事業主貸の金額が増えても、事業の利益(所得)が減ることはなく、結果として事業所得に対する税金計算には影響を与えない仕組みになっています。

この科目を正しく使うことで、事業用資金の動きを正確に記録できます。

事業用ではない口座やクレジットカードでの支払い

 

事業用ではなく、最初からプライベートな個人の銀行口座や個人のクレジットカードでふるさと納税を支払った場合はどうなるのでしょうか。

この場合、事業の帳簿(会計ソフト)には一切入力する必要はありません。

なぜなら、事業資金が動いていない以上、事業の会計処理としては「取引なし」とみなされるからです。

これは家計簿の中で管理すべき支出であり、事業の帳簿につけてしまうと、かえって現金の残高が合わなくなるなどのトラブル原因になります。

しかし、事業用カードで決済する場合は、先ほどご説明したように、事業主貸の勘定科目で仕分けする必要があります。

「プライベートな支出は事業主貸、プライベートな資金源からの入金は事業主借」というルールを覚えておくと、ふるさと納税以外の生活費決済などが混ざった際にも迷わずに処理できます。

 

法人の会計記帳との違い

 

個人事業主と法人では、ふるさと納税に関する取り扱いが大きく異なります。

法人が行うふるさと納税は「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」と呼ばれ、これは一定の要件を満たすことで損金(法人税法上の経費のようなもの)に算入することが可能です。

個人事業主と法人の扱いの違いを以下の表にまとめました。

 

項目 個人事業主(ふるさと納税) 法人(企業版ふるさと納税)
支出の性質 個人的な寄付 事業に関連する寄付行為
勘定科目 事業主貸 寄付金(損金算入可能)
経費(損金)計上 不可(所得控除で対応) 一定限度額まで可能
返礼品の有無 あり なし(経済的利益の供与は禁止)

 

このように、法人の場合は地域再生法に基づく認定事業への寄付として扱われるため、「寄付金」勘定を使って経費処理(損金算入)を行い、さらに税額控除を受けるメリットがあります。

一方、個人事業主はあくまで「個人の楽しみ・社会貢献」としての側面が強いため、事業の経費にはなりません。

自身の立場が個人事業主である以上、法人向けの情報を混同しないように注意が必要です。

 

個人事業主のふるさと納税の仕訳と勘定科目の具体例

 

次は実際に帳簿をつける際の具体的な手順を見ていきましょう。

会計ソフトを使っている場合、どのように入力すればよいのか、特に利用者が多いクレジットカード払いでの仕訳例を中心に解説します。

また、返礼品を受け取った際の処理や、確定申告書への記載方法など、一連の流れを具体的な事例を通してイメージできるようにします。

事業用クレジットカード払いの仕訳

近年、ふるさと納税の支払いはポータルサイト経由でのクレジットカード決済が主流です。

事業用のクレジットカードで支払った場合、決済を行った日(利用日)と、実際に口座から引き落とされる日(引落日)の2回に分けて仕訳を考えるのが基本です。

ただし、実務上は会計ソフトの自動連携機能を使うことが多いため、それぞれのタイミングで適切な科目が選択されているかを確認します。

クレジットカード決済時

 

カードで寄付を申し込んだ時点での仕訳です。

まだ現金は動いていませんが、支出の義務が発生しています。

 

借方科目 金額 貸方科目 金額 摘要
事業主貸 10,000 未払金 10,000 〇〇市
ふるさと納税

 

借方(左側)には「事業主貸」を設定します。貸方(右側)は、カード払いの未決済額を表す「未払金」などが一般的です。

口座引き落とし時

 

後日、事業用口座からカード代金が引き落とされた時の仕訳です。

 

借方科目 金額 貸方科目 金額 摘要
未払金 10,000 普通預金 10,000 カード代金
引き落とし

 

この処理により、帳簿上の未払金が消し込まれ、預金残高が減少します。

結果として「事業主貸 / 普通預金」という形になり、事業用資金が個人的な用途で支出されたことが記録されます。

freee等でのふるさと納税勘定科目の入力

 

freeeやマネーフォワード、弥生会計オンラインなどのクラウド会計ソフトを使用している場合、銀行口座やクレジットカードを連携させていれば、明細が自動的に取り込まれます。

例えば、ふるさと納税の明細が入ってきた際、ソフト側が自動で「租税公課」や「雑費」などを推測して提案してくることがありますが、これをそのまま登録してはいけません。

必ず手動で勘定科目を「事業主貸」に変更して登録してください。

freeeの場合、「プライベートな支出として処理」という趣旨のショートカット機能やスイッチが用意されていることがあります。

これを利用すると、自動的に事業主貸として処理されるため便利です。

摘要欄には「〇〇市への寄付」などとメモを残しておくと、後で見返したときにわかりやすくなります。

重要なのは、どのソフトを使う場合でも「経費科目にしない」という一点を徹底することです。

ふるさと納税の返礼品は売上仕訳に含まない

 

寄付を行うと、後日、お米やお肉などの返礼品が届きます。

これらは金銭的な価値を持つものですが、事業の「仕入れ」でもなければ、受け取ったことによる「売上」でもありません。

そのため、返礼品が届いたタイミングでの事業帳簿への仕訳入力は一切不要です。

ただし、税務上の考え方として、返礼品は「一時所得」という区分に該当します。

一時所得には、年間50万円の特別控除額があります。

つまり、受け取った返礼品の価値や、その他の生命保険の一時金などの合計が年間50万円を超えない限り、課税対象にはなりません。

一般的な規模でふるさと納税を行っている限り、この50万円の壁を超えることは稀ですので、確定申告で返礼品に関する所得申告が必要になるケースは少ないといえます。

事業の利益計算には全く影響しないことを覚えておきましょう。

参考:国税庁 No.1490 一時所得

確定申告時の寄付金受領証明書と控除の手続き

 

帳簿づけで「事業主貸」として処理しただけでは、節税の効果は得られません。

ふるさと納税のメリットである税金の控除を受けるためには、確定申告書での正しい手続きが必須となります。

まず、寄付をした自治体から送られてくる「寄附金受領証明書」を確実に保管してください。

最近では、ポータルサイトが発行する「寄附金控除に関する証明書(XMLデータ等)」を利用して、e-Taxで簡便に申告することも可能です。

確定申告書を作成する際、決算書(収支内訳書)にはふるさと納税の記述は登場しません。

記載するのは、確定申告書(第一表・第二表)の「寄附金控除」の欄です。

ここに、1年間の寄付金合計額から自己負担額2,000円を差し引いた金額などが反映されるように計算します。

クラウド会計ソフトで確定申告書を作成する場合は、専用の「ふるさと納税・寄付金」入力画面で寄付先と金額を入力すれば、自動的に申告書の正しい欄に数字が転記されます。

この入力作業を忘れると、単にお金を払っただけになってしまうので注意が必要です。

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個人事業主のふるさと納税と勘定科目のよくある質問

 

最後に、個人事業主がふるさと納税を行う際によくある疑問や、勘違いしやすいポイントをQ\&A形式でまとめました。

ここまでの解説で触れきれなかった細かい部分や、迷いやすいケースについて補足します。曖昧な点をクリアにして、自信を持って申告できるようにしましょう。

個人事業主が寄付を行った場合の勘定科目

 

「ふるさと納税」に限らず、赤十字やNPO法人、地域の神社などへの一般的な寄付を行った場合も、原則として個人事業主の経費にはなりません。

勘定科目はふるさと納税と同様に「事業主貸」を使用します。

ただし、寄付先が「国や地方公共団体」「特定公益増進法人」など一定の要件を満たす場合は、ふるさと納税と同じく「寄附金控除」の対象となり、確定申告書に記載することで所得控除を受けられます。

一方で、地域の祭りへの寄付や同窓会への寄付など、控除対象にならない個人的な寄付も存在します。

これらも事業用資金から出した場合はすべて「事業主貸」で処理し、事業の経費とは明確に分ける必要があります。

ふるさと納税をした際の計上科目について

 

繰り返しになりますが、計上科目は「事業主貸」一択と考えて問題ありません。

稀に「租税公課」で処理してよいという誤った情報を見かけることがありますが、租税公課は事業にかかる税金、例えば、個人事業税や固定資産税、消費税などを処理するための科目です。

また、「福利厚生費」にできないかという質問もありますが、個人事業主本人に対する福利厚生という概念は税務上認められていません。

従業員を雇っている場合でも、従業員の名義ではなく事業主名義で寄付を行うふるさと納税は、やはり事業主個人の支出となります。

迷ったときは、「事業に関係ない個人的な支払いはすべて事業主貸」という基本ルールに立ち返ることが大切です。

ふるさと納税の限度額の計算方法は?

 

他によくある質問として、「限度額の計算」に関するものがあります。

個人事業主の場合、その年の事業利益(所得)が確定する年末まで正確な控除限度額がわかりにくいという難点があります。

給与所得者のように収入が一定ではないため、想定よりも利益が少なかった場合、限度額を超えて寄付をしてしまい、自己負担額が2,000円より増えてしまう可能性があります。

これを防ぐためには、11月や12月頃にある程度の利益予測を立て、少し余裕を持った金額(限度額の安全圏)で寄付を行うのが賢明です。

また、住民税の決定通知書を見て「本当に控除されているか」を確認することも忘れないようにしましょう。

事業主貸で処理したお金が、しっかりと翌年の税金軽減という形で戻ってきているかを確認するまでが、ふるさと納税の一連の流れと言えます。

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まとめ

 

この記事では、個人事業主がふるさと納税を行った際の勘定科目や仕訳ルールについて解説してきました。

ポイントを振り返ります。

  • ふるさと納税は個人的な支出であり、経費にはなりません
  • 事業用資金で支払った場合の正しい勘定科目は「事業主貸」です。
  • クレジットカード払いの際は、決済時と引落時の仕訳に注意しましょう。
  • 帳簿につけるだけでなく、確定申告書での「寄附金控除」の申告を忘れないことが重要です。

「経費にならない」と聞くと損をした気分になるかもしれませんが、所得控除を通じて所得税や住民税を減らす効果は十分にあります。

事業主貸という科目を正しく使いこなすことは、事業とプライベートの資金管理を徹底していることの証明でもあり、税務署からの信頼にもつながります。

正しい知識で会計処理を行い、ふるさと納税のメリットを最大限に活用しましょう。

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