事業税がかかる個人事業主の所得金額や業種について解説

個人事業主として事業を営んでいると、所得税や住民税以外に「事業税」という言葉を耳にすることがありますね。

8月頃に突然、都道府県から納税通知書が届いて初めてその存在を知り、「これは何の税金?」「なぜ払う必要があるの?」「どうやって計算されているの?」と、多くの疑問が浮かぶ方も少なくないはずです。

この記事では、そんな個人事業主の方々が抱える事業税に関する疑問について取り上げています。

 

本記事のポイント

  • 個人事業税の納税義務があるかどうかがわかる
  • 納税通知書が届く時期や納付方法がわかる
  • 経費計上や控除を活用した節税のポイントがわかる

 

事業税の基本|個人事業主のあなたは対象?

 

このセクションでは、「事業税とは何か」という基本的な疑問にお答えします。

ご自身が納税対象者なのか、所得がいくらから課税されるのか、また、事業税がかからない業種はあるのかといった、納税義務の有無を判断するために不可欠な情報を解説します。

納税通知書に関するよくある疑問にも触れていきますので、ご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。

 

個人事業税の290万円とは?

 

個人事業税の計算で登場する「290万円」という金額は、「事業主控除」と呼ばれるものです。

これは、個人事業主が事業を継続していく上で必要な経費とは別に、事業主個人の生活費などを考慮して設けられた、いわば基礎的な控除枠と考えると分かりやすいです。

この事業主控除があるおかげで、所得がそれほど多くない事業主の税負担が軽減される仕組みになっています。

所得税の計算で用いる「基礎控除」や「青色申告特別控除」とは全く別の、事業税独自の控除制度です。

ここで非常に大切なポイントがあります。

事業税の課税対象となる所得は、所得税の青色申告で適用される「青色申告特別控除」を差し引く前の金額で判断されます。

(通常55万円、e-Taxでの申告など特定の要件を満たす場合は最大65万円)

この違いが、予期せぬ納税通知に繋がることがあるため、しっかりと区別して理解しておくことが肝心です。

より詳しい青色申告特別控除の要件については、以下もご参照ください。

参考:国税庁のウェブサイト「No.2072 青色申告特別控除」

個人事業税がかからない人はどんな人?

 

個人事業税の納税義務がない、つまり事業税がかからないのは、主に次の2つのケースに該当する人です。

第一に、前述の通り、年間の事業所得が290万円以下の個人事業主です。

事業主控除290万円を差し引くと課税対象となる所得がゼロかマイナスになるため、事業税は発生しません。多くの中小規模の事業者や、独立して間もないフリーランスの方がこれに該当すると考えられます。

第二に、営んでいる事業が「法定業種」に該当しない人です。

事業税は、地方税法という法律で定められた70種類の事業(法定業種)に対してのみ課税されます。

ご自身の事業がこの法定業種に含まれていなければ、たとえ所得が290万円を超えていても事業税を納める必要はありません。

このほか、災害によって事業用の資産に大きな損害を受けた場合や、生活保護法による扶助を受けている場合など、特定の状況下で申請をすれば税額が減免される制度もあります。

 

事業税がかからない業種を一覧で確認

 

事業税は、全ての業種に課税されるわけではありません。

地方税法で定められた70の「法定業種」に該当しない事業は、非課税となります。

具体的に、非課税となる業種の代表例としては、作家や漫画家、作曲家、プログラマー、システムエンジニア、翻訳家、通訳家などが挙げられます。

これらの職種は、法定業種に含まれていないため、所得が290万円を超えても原則として事業税はかかりません。

一方で、課税対象となる法定業種は、その性質によって3つの区分に分けられています。

 

区分 税率 主な事業の例
第1種事業 5% 物品販売業、飲食店業、広告業、請負業、不動産貸付業、商品取引業など
第2種事業 4% 畜産業、水産業、薪炭製造業など
第3種事業 5%または3% 医業、弁護士業、税理士業、コンサルタント業、デザイン業、理容業、美容業など(あんま・マッサージ業などは3%)

 

ただし、ご自身の職業名だけで判断するのは注意が必要です。

例えば「ライター」は非課税業種ですが、クライアントとの契約内容が実質的に「請負業」と判断されれば、課税対象となる可能性もあります。

最終的な判断は事業の実態に基づいて行われるため、不明な場合は管轄の都道府県税事務所に確認するのが確実です。

参考:東京都主税局「個人事業税」

 

所得が290万円以下なのに通知書が届く理由

 

所得税の確定申告では所得が290万円以下だったにもかかわらず、事業税の納税通知書が届いて驚くケースがあります。

その主な理由は、所得税と事業税とで「所得」の計算方法が異なる点にあります。

最大のポイントは「青色申告特別控除」の扱いです。

所得税の計算では、青色申告を行うことで55万円(e-Taxでの申告など特定の要件を満たす場合は65万円)の特別控除を受けられます。

しかし、先ほども少し触れましたが、事業税の所得計算では、この青色申告特別控除は適用されません。

このような計算上の違いを知らなかった場合、事業税の納税通知書が届いて驚くということがあり得ます。

 

一人親方の事業税はどうなる?

 

建設業などで活躍されている一人親方の場合、事業税が課税されるかどうかは、その事業内容によって決まります。

結論から言うと、多くの一人親方は法定業種の一つである「請負業」に該当するため、課税対象となる可能性が高いと考えられます。

事業税の課税判断は、「一人親方」という働き方の名称ではなく、行っている事業の具体的な実態に基づいて行われます。

元請けや下請けから仕事を受注し、自身の技術や労働力を提供して完成させた仕事に対して報酬を得るという形態は、一般的に「請負業」と見なされます。

したがって、一人親方として活動し、年間の所得(青色申告特別控除を引く前)が290万円を超えた場合は、事業税の納税義務が発生します。

もちろん、事業内容が法定業種に該当しない場合はこの限りではありませんが、建設関連の事業であれば請負業に分類されることがほとんどです。

ご自身の事業がどの業種に該当するかは、納税通知書に記載されているか、管轄の都道府県税事務所に問い合わせることで正確に確認できます。

 

納税通知書はいつ届く?来ない時の対処法

 

個人事業税の納税通知書は、原則として毎年8月上旬から中旬にかけて、事務所や事業所の所在地を管轄する都道府県税事務所から郵送されます。

納付は年2回に分かれており、第1期分の納期限が8月末、第2期分の納期限が11月末となっているのが一般的です。

ただし、年税額が1万円以下の場合は、8月の第1期で全額を一度に納付することもあります。

一方で、納税通知書が届かないケースも存在します。

その主な理由は以下の通りです。

  • 所得が290万円以下であるか、事業が非課税業種に該当する場合
  • 住所変更の届出が未了の場合

仮に、引っ越しをした際に、税務署への届出は済ませていても、都道府県税事務所への届出が漏れていると、通知書が旧住所に送られてしまうことがあります。

もし、ご自身の所得が290万円を超えており、事業も法定業種に該当するはずなのに8月を過ぎても通知書が届かない場合は、放置せずに管轄の都道府県税事務所へ問い合わせることをお勧めします。

万が一、通知書が届いていないことに気づかずに納期限を過ぎてしまうと、延滞金が加算される可能性があるため注意が必要です。

 

個人事業主の事業税に関する勘定科目・仕訳・節税

 

このセクションでは、実際に納税義務がある場合に知っておくべき、納付後の会計処理について掘り下げていきます。

さらに、経費や控除を正しく理解し、事業税の負担を少しでも軽減するための節税のポイントについても詳しくご紹介しますので、参考にしてください。

 

個人事業税を少なくするにはどうすれば良い?

 

個人事業税の負担を合法的に軽減するには、課税対象となる所得金額を適正に抑えることが鍵となります。

そのための基本的な方法は、経費を漏れなく計上し、適用できる控除を最大限に活用することです。

 

経費を漏れなく計上する

 

事業収入を得るためにかかった費用は、すべて必要経費として計上できます。

仕入費や人件費はもちろん、事務所の家賃や水道光熱費、通信費、広告宣伝費なども対象です。

特に自宅兼事務所の場合は、家賃や光熱費などを事業で使用している割合に応じて「家事按分」し、経費に計上することを忘れないようにしましょう。

経費が正しく計上されれば、その分所得が圧縮され、結果的に事業税の節税に繋がります。

 

各種控除を活用する

 

事業主控除以外にも、事業税にはいくつかの控除制度があります。

例えば、青色申告をしている方で事業が赤字になった場合、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できる「損失の繰越控除」があります。

これにより、好不調の波がある事業でも、長期的な視点で税負担を平準化することが可能です。

 

法人化を検討する

 

長期的な視点では、所得が一定の金額(一般的に800万~900万円)を超えてくると、個人事業主のままよりも会社を設立して「法人化」した方が、法人税や役員報酬の給与所得控除などが適用され、トータルの税負担を抑えられる場合があります。

事業が大きく成長した際には、節税の一つの選択肢として検討してみるのも良いでしょう。

 

経費の勘定科目と正しい仕訳の方法

 

納付した個人事業税は、所得税や住民税とは異なり、事業を営む上で発生した費用として「経費」に計上することができます。

これにより、翌年の所得税や住民税、そして事業税の計算において、課税対象所得を減らす効果があります。

経費として計上する際の勘定科目は「租税公課(そぜいこうか)」を使用するのが一般的です。

 

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具体的な仕訳例

 

例えば、8月に普通預金から第1期分の事業税25,000円を納付した場合の仕訳は以下のようになります。

 

借方 貸方
租税公課 25,000円 普通預金 25,000円

 

経費計上するタイミングの注意点

 

ここで大切なのは、経費として計上するタイミングです。

個人事業税は、その税額が計算される原因となった年(例えば2024年分の所得に対する事業税)の経費ではなく、実際に納付した年(2025年)の経費として計上します。

つまり、2025年の8月と11月に納付した事業税は、2026年3月に行う「2025年分」の確定申告で経費として計上することになります。

この点を誤解しないよう注意しましょう。

所得税や住民税、国民健康保険料などは経費にできませんので、これらと事業税は明確に区別して会計処理を行う必要があります。

 

まとめ:個人事業主の事業税

 

この記事では、個人事業主が直面する事業税に関する疑問について解説してきました。

個人事業税は、所得税などと並んで事業運営において考慮すべき重要な税金の一つです。

要点を振り返ると、納税義務を判断する上での鍵は、年間所得が「290万円」を超えるかどうか、そしてご自身の事業が「法定業種」に該当するかどうかの2点にあります。

これらを満たす場合、毎年8月頃に納税通知書が届き、原則として8月と11月の2回に分けて納付することになります。

税額の計算は都道府県が行いますが、青色申告特別控除が適用されないなど、所得税とは異なるルールがあることを理解しておくことが大切です。

また、納付した事業税は「租税公課」として翌年の経費に計上できるため、忘れずに会計処理を行いましょう。

日々の経費管理を徹底し、会計ソフトなどを上手に活用しながら、税金と正しく向き合っていくことが、事業を安定して成長させるための土台となります。

もし不明な点があれば、一人で抱え込まずに管轄の都道府県税事務所などへ相談することも検討してください。

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