インボイスはフリーランス潰し?制度のデメリットと対策を解説

インボイス制度が開始され、「これは実質的なフリーランス潰しではないか」という不安や強い反発の声が広がっています。

これまで免税事業者として活動してきた多くのフリーランスにとって、この制度は収入の減少や事務負担の増加に直結しかねない、非常に大きな変化です。

この記事では、なぜインボイス制度がそのように言われるのか、その実態を紐解きながら、フリーランスがこの状況を乗り越えるための具体的な対策を分かりやすく解説します。

本記事のポイント

  • インボイス制度が「フリーランス潰し」と言われる具体的な理由
  • 制度によって誰が得をして、誰が不利益を被るのかという構造
  • フリーランスが自身の状況に応じて取るべき対策と選択肢
  • 制度の影響を受けやすい職業と、比較的受けにくい業種の違い

肩肘をついて悩む女性

インボイス制度がフリーランスの働き方に大きな影響を与えているのは事実です。

このセクションでは、なぜこの制度が「フリーランス潰し」とまで呼ばれるのか、その背景にある制度の基本的な仕組みから、誰がどのような影響を受けるのかという実態までを掘り下げていきます。

制度の構造を正しく理解することが、適切な対策を立てるための第一歩となります。

インボイス制度の概要

インボイス制度とは、正式には「適格請求書等保存方式」といい、消費税の納税額を正しく計算するための新しいルールです。

この制度の核心は、「適格請求書(インボイス)」と呼ばれる特定の形式を満たした請求書にあります。

これまでの請求書と違い、インボイスには発行する事業者の「登録番号」や、税率ごとの「消費税額」などを正確に記載しなければなりません。

そして、このインボイスを発行できるのは、税務署に申請し、登録を受けた「適格請求書発行事業者」だけです。

重要なのは、適格請求書発行事業者になるためには、必ず「課税事業者」になる必要があるという点です。

これまで年間の売上が1,000万円以下で消費税の納税が免除されていたフリーランス(免税事業者)も、取引先からインボイスの発行を求められた場合、課税事業者になるかどうかの選択を迫られます。

このように、インボイス制度は単なる請求書の書式変更ではなく、特に小規模なフリーランスの納税義務や取引のあり方を根本から変えてしまう可能性を秘めた制度なのです。

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誰が得するのか?

インボイス制度の導入によって、主に利益を得るのは「国(国税庁)」と、取引における「買い手(発注側の企業)」であると考えられます。

まず国にとっては、これまで免税事業者のもとに留まっていた消費税(いわゆる益税)を、課税事業者からの納税という形で徴収できるようになるため、税収の増加に繋がります。

政府の試算では、この制度により年間で約2,480億円の税収増が見込まれています。税の徴収をより正確かつ効率的に行うことが、国側の大きな目的です。

一方、買い手である発注側の企業にとってもメリットがあります。

企業は、仕入れにかかった消費税を、売上時に預かった消費税から差し引いて納税する「仕入税額控除」という仕組みを利用して節税しています。

インボイス制度が始まると、この控除を適用するためには、取引相手からインボイスを受け取って保存することが必須となります。

したがって、発注側の企業は、インボイスを発行してくれる課税事業者と取引することで、確実に仕入税額控除を受け、自社の納税負担を軽減できるのです。

この構造が、インボイスを発行できない免税事業者との取引を見直す動きに繋がっています。

誰が損するのか

インボイス制度で最も大きな不利益を被るとされているのは、これまで消費税の納税を免除されてきたフリーランスや個人事業主といった「免税事業者」です。

これらの事業者は、制度の開始によって非常に厳しい二者択一を迫られることになります。

一つは、インボイスを発行するために「課税事業者」になる道。もう一つは、納税を避けるために「免税事業者」のままでいる道です。

課税事業者になることを選べば、新たに消費税の納税義務が発生します。

これは、これまで利益の一部として手元に残っていた消費税相当額がなくなることを意味し、実質的な手取り収入の減少に直結します。

かといって、免税事業者のままでいるほうがいいと、簡単に判断することはできません。

取引先が課税事業者であった場合、インボイスを発行できないフリーランスとの取引では仕入税額控除が適用できず、取引先がその分の消費税を負担することになってしまいます。

そのため、免税事業者は、取引先から消費税分の値下げを要求されたり、契約の継続を断られたりするリスクが高まります。

このように、どちらの道を選んでも収入減や取引上の不利益に繋がる可能性があり、フリーランスが一方的に「損をする」構造になっているのが現状です。

売上1000万以下の事業者への影響とは

年間売上が1,000万円以下の事業者は、これまで消費税の納税義務が免除されており、この「免税制度」が小規模な事業を支える一つの柱となっていました。

しかし、インボイス制度はこの前提を根底から揺るがすものです。

影響の大きさは、主に取引相手が誰かによって決まります。

取引先が一般消費者や同じ免税事業者であれば、相手は仕入税額控除を必要としないため、インボイスの発行を求められることはほとんどありません。

しかし、取引相手の多くが企業などの「課税事業者」である場合、影響は深刻です。

前述の通り、取引先は自社の納税負担を減らすために仕入税額控除を必要とするため、インボイスの発行を強く求めてくることが予想されます。

例えば、年間売上500万円のフリーランスデザイナーが、クライアントの要望で課税事業者になったとします。負担軽減措置である「2割特例」を利用したとしても、単純計算で受け取った消費税の2割を納税する必要が生じます。

これは事業規模が小さいほど経営に対するインパクトが大きく、事業継続のための運転資金や、将来への投資、ひいては自身の生活費を圧迫する要因となり得ます。

「ひどい」と言われる理由

この制度が一部で「ひどい」とまで強く批判されている背景には、制度設計そのものに理由があります。

最大の理由は、実質的な増税であるにもかかわらず、その負担を国が直接徴収するのではなく、「事業者間の取引」に委ねている点です。

これにより、ビジネス上の力関係が弱いフリーランスや小規模事業者に、不利益が集中しやすい構造が生まれています。

実際に、制度開始前から「インボイスに登録しないなら、今後の取引は考えさせてもらう」といった一方的な通告や、優越的な地位を利用した値下げ要求などが問題視されてきました。

これは、独占禁止法に抵触する可能性も指摘されていますが、現実には仕事を失うことを恐れて、フリーランス側が泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。

また、介護や育児、自身の病気など、様々な事情でフルタイムで働くことが難しく、フリーランスという働き方を選んでいる人々にとっては、この制度による収入減や事務負担増は死活問題です。

多様な働き方や、社会のセーフティネットとしての役割を担ってきた小規模事業の存続を脅かす側面が、「ひどい制度だ」という強い反発を招いているのです。

なぜ廃業するのでしょうか?

インボイス制度の導入をきっかけに、一部のフリーランスや小規模事業者が廃業を検討、あるいは決断しているのは、主に「収入の継続的な減少」と「対応困難な事務負担の増大」という、二つの大きな壁に直面するからです。

収入減少による経営の圧迫

課税事業者になった場合の納税負担は、そのまま手取り収入の減少を意味します。

特に、価格交渉力が弱く、納税分を取引価格に上乗せすることが難しいフリーランスにとっては、利益率が大幅に低下し、事業の採算が合わなくなってしまうことがあります。

生活費を切り詰めたり、事業に必要な投資を控えたりしてもなお、経営が立ち行かなくなるケースが出ています。

煩雑な事務作業への対応不可

免税事業者であった場合、これまで消費税に関する経理処理は不要でした。しかし、課税事業者になると状況は一変します。

具体的には、以下のような新たな事務作業が発生します。

  • 取引ごとにインボイス(適格請求書)の要件を満たした請求書を作成・保存する
  • 受け取った請求書や領収書がインボイスの要件を満たしているか確認・管理する
  • 売上と経費にかかる消費税を正確に計算し、確定申告時に消費税の申告書を作成・提出する

これらの作業は専門的な知識を要するため、自身で対応するには大きな時間と労力がかかります。

税理士に依頼すればその分の費用が発生し、小規模事業者にとっては大きな負担となります。

これらの金銭的・時間的な負担が事業継続の意欲を削ぎ、将来への見通しが立たないことから、やむなく廃業という道を選ぶ事業者が現れているのです。

インボイス対応でお困りの場合は、国税庁のサイトにあるインボイスコールセンター(インボイス制度電話相談センター)の情報を活用してください。

サイトには、インボイス制度や軽減税率制度に関する一般的な質問や相談、確定申告に関する相談やインボイス制度に関する個別の相談など一般的な相談以外についての、相談先の情報がまとめられています。

参考:国税庁 インボイスコールセンター(インボイス制度電話相談センター)

インボイスは「フリーランス潰し」と感じるほど厳しい制度!取りうる具体的対策とは?

 

取引履歴を見ながら、電卓を打っている手

インボイス制度がフリーランスにとって厳しい制度であることは間違いありません。

しかし、ただ手をこまねいているだけではなく、取りうる対策は存在します。

このセクションでは、制度の「実態」を踏まえた上で、フリーランスが自身の事業を守り、この状況を乗り切るための具体的な選択肢や考え方について解説していきます。

登録しないとフリーランスはどうなる?

インボイスに登録せず、免税事業者のままで活動を続けるという選択も可能です。

この場合の最大のメリットは、これまで通り消費税の納税義務がなく、複雑な経理処理からも解放される点です。

しかし、この選択には相応のリスクが伴うことを理解しておく必要があります。

主なリスクは、取引先が課税事業者であった場合に、取引条件の変更や契約の打ち切りに繋がる可能性です。

具体的には、以下のような事態が想定されます。

  • 消費税相当額の値下げを要求される: 取引先が負担増となる消費税分を、フリーランスへの報酬から差し引くよう求めてくるケース。
  • 取引が減少・停止する: 経理処理の煩雑化を避けたい、あるいは納税負担を完全に回避したい取引先が、インボイスを発行できる別の事業者へ乗り換えるケース。
  • 新規案件の獲得が難しくなる: 新しい取引先を探す際に、「適格請求書発行事業者であること」が応募の必須条件となっているケースが増えています。

ただし、制度開始から数年間は、免税事業者からの仕入れでも一定割合を控除できる「経過措置」が設けられています。

この期間を利用して、取引先と丁寧に交渉する余地は残されています。

したがって、登録しない道を選ぶ場合は、自身の取引先の状況を把握し、今後の関係性について話し合うなどの戦略的な動きが不可欠になります。

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インボイス制度に対して疑問を抱く男性

困る職業と関係ない業種の具体例

インボイス制度の影響度は、あなたの主な取引相手が誰かによって大きく変わります。

制度の根幹である「仕入税額控除」が、取引先にとって必要なのかどうかが判断の分かれ目です。

影響の度合い 主な取引相手 職業・業種の例 影響の理由
影響が大きい 企業・法人(課税事業者) ・エンジニア、プログラマー
・Webデザイナー、イラストレーター
・ライター、編集者
・コンサルタント、士業
・企業向けの動画編集者
取引先が仕入税額控除を適用するため、インボイスの発行を求められる可能性が非常に高い。
影響が小さい 一般消費者、免税事業者 ・一般顧客向けの美容師、ネイリスト
・整体師、マッサージ師
・学習塾、音楽教室、英会話教室の講師
・消費者向けに商品を販売する作家
・個人経営の飲食店
取引相手が仕入税額控除を必要としないため、インボイスの発行を求められることがほとんどない。

このように、自分のビジネスがBtoB(企業間取引)中心なのか、BtoC(対消費者取引)中心なのかをまず見極めることが、インボイス制度への対応を考える上で最も重要な第一歩と言えます。

副業で活動するフリーランスの注意点

本業として会社に勤務しながら、副業でフリーランスとして活動している方も、インボイス制度の影響と無関係ではありません。

副業の取引先が課税事業者であれば、本業のフリーランスと同様にインボイスの発行を求められる可能性があります。

その際に課税事業者として登録すること自体は可能で、それによって本業の会社に副業の事実が直接知られることは基本的にありません。

しかし、注意すべきは「費用対効果」です。

副業での収入がまだそれほど多くない段階で課税事業者になると、新たに発生する納税負担や、慣れない確定申告(所得税+消費税)の手間が、副業で得られる収入ややりがいを上回ってしまう可能性があります。

例えば、年間売上が数十万円の副業のために、納税や複雑な事務処理に追われるのは現実的ではないかもしれません。

副業だからといって安易に登録するのではなく、副業の売上規模、今後の事業拡大の展望、そして取引先との関係性を総合的に考慮して、登録するかどうかを慎重に判断することが大切です。

場合によっては、インボイス登録が不要な取引先を中心に活動するという戦略も考えられます。

消費税の負担はデメリットしかないのか

ここまで見てきたように、インボイス制度、特に課税事業者になることは、フリーランスにとって収入減や事務負担増といったデメリットが非常に大きいのが実情です。

しかし、ごく一部ではありますが、見方によってはメリットと考えられる側面も存在します。

デメリット

  • 実質的な手取り収入の減少: 消費税の納税義務が発生するため。
  • 経理業務の複雑化: 消費税申告の手間やコストが増加するため。
  • 免税事業者のままだと取引を失うリスク: 取引先から敬遠される可能性があるため。

メリット

  • 社会的信用の向上: 課税事業者として税務署に登録されていることは、取引先に対して一定の信頼感を与えることがあります。
  • 取引先の拡大: これまで「課税事業者とのみ取引する」としていた企業とも、対等に取引できるチャンスが生まれます。新規開拓においては有利に働く可能性があります。

とはいえ、多くのフリーランス、特にこれまで免税事業者であった方々にとっては、これらのメリットが深刻なデメリットを上回るケースは稀でしょう。

メリットの側面も理解しつつ、自身の事業戦略にとって本当に必要かどうかを冷静に見極めることが求められます。

インボイス廃止の可能性は今後あるのか?

制度の負担の大きさから、フリーランスや小規模事業者、さらには一部の税理士などからも、インボイス制度の中止や廃止を求める声が強く上がっています。

実際に、制度導入前から反対の署名活動やデモが行われてきました。

しかし、現時点において、一度施行されたインボイス制度が近い将来に廃止される可能性は、残念ながら低いと言わざるを得ません。

その理由として、政府は複数税率への対応と、公平な課税の観点から制度の必要性を主張しており、税収確保の面からも制度を維持する方針であるためです。

また、制度開始に合わせて多くの企業がシステム対応などに投資しており、今から廃止となると市場に大きな混乱を招くことも懸念されます。

政府は負担軽減策として「2割特例」や「少額特例」といった経過措置を設けていますが、これらはあくまで制度の軟着陸を目指す時限的なものです。

したがって、フリーランスとしては、制度が今後も存続することを前提として、「このルールの中でどう立ち回り、事業を守っていくか」という現実的な視点で対策を講じていくことが賢明な判断と考えられます。

まとめ:厳しいインボイス制度の影響を乗り越えよう

本記事では、インボイス制度がなぜ「フリーランス潰し」とまで言われるのか、その構造的な問題点から、フリーランスが取りうる具体的な対策までを解説しました。

この制度が多くのフリーランスにとって厳しいものであることは事実ですが、自身の状況を正しく理解し、戦略的に行動することで乗り越える道筋は見えてきます。

重要なのは、まず自身の事業形態(取引先が企業か個人か)、年間の売上規模を冷静に分析することです。

その上で、課税事業者になるか、免税事業者のままでいるか、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、自身の事業にとって最適な選択をしてください。

もし課税事業者になる場合は、「2割特例」などの負担軽減措置を最大限に活用しましょう。

また、インボイス制度に対応する際は、補助金などを活用できないかを検討してください。

例えば、個人事業主やフリーランスも利用できる小規模事業者持続化補助金には、「インボイス特例」が設けられており、条件を満たすことで一律50万円が上乗せとなります。

一方で免税事業者のままでいる場合は、経過措置の期間を活かして取引先と丁寧に交渉することが鍵となります。

一人で抱え込まず、必要であれば税理士などの専門家に相談したり、会計ソフトを導入して事務負担を軽減したりすることも有効な手段です。

この変化を事業を見直す機会と捉え、なんとか乗り越えていきましょう。

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